堕ちたる貴公子 〜「幻想都市イスィラノール」より


その姿は美しかった、まるで美神が堕ちたかのように。
衣は裂け、髪は汚れ、肌は泥にまみれていたけれど。
その瞳に宿る光は、紛れもなく貴公子。
ここ歓楽都市の。
汚れていた身体、惚けたように、放心したように、半裸のまま座り込んで。
朱がかった頬に傷はなかった。ただ、腕に一筋、短刀−ナイフ−での傷、奴隷の証。
悪戯にしても非道い、消して消えぬ刺青を、無防備にさらしたまま。
抱き上げて戻る家に、人影は無い。
捨て子を拾う…物好きなことか。
それでも、この少年は惜しかった。
歓楽都市の貴公子、その身体に傷は二つ。美しすぎたがゆえの、罪。
少年に甘い氷の仮面与え、教え込むこの街の流儀、冷たい笑顔。
その身体に傷は二つ。決して消えぬが、隠し通せと
右腕にのみ、外れえぬ手甲を付けて、隠し続けて
自らの運命を、娯しめと。