Zolphenor 〜「幻想都市イスィラノール」より


唐突に開かれた扉、少女のような少年、杖を手にして

「お願いします、助けて下さい」

懇願の声に思わず戸棚を指す。中へと隠れろと。
屈強な男達の声、皆一様に荒々しい。少年を奪うためか。
追い払い少年を呼ぶ、女のようなその美貌、追われていた理由。
精霊を呼び込む翠緑の瞳、念を宿した碧翠の髪。
一目見て分かった、霊たちが託せし子。
礼を言うにも怯えたまま。去ろうとする肩を押しとどめる。ここで暮らせと。
この才能を逃したくはなかった。生まれし日よりの、この才を。
瞳を見返し、頷く彼。この街には不似合いな、純粋な瞳。

私と同じにはさせられない……

呟いた私を少年が仰ぎ見、ふと笑みを浮かべる。
手に持つ杖に、自らの手で光を宿した。精霊を。

「精霊達を、教えて下さい」

柔らかな声、白い肌、美しいと思った。
精霊たちに好かれる者。いつかこの街を離れるよう告げて。
間もなく世を去る私の持つすべての力、知識、渡すべき相手に。
世に唯一の、至上の、精霊使いと。