2003年4月
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2003.4.2(Wed)

「弱くなり切れぬのなら、
 虚構でも良い、強きままで居ろ。」


傷を負った訳では無い。
痛みを感じるわけでは無い。

けれどただ…そう、ただ。
無性に何かを傷付けたくて。

この炎を蘇らせるにはまだ早かったろうか?
この身は炎を宿らせるには足りぬと?

…麻痺するほどに
情ばかりが溢れ、流れ出て。

器用になれぬは火精の気性と知れど
触れては傷付けることも定めと知れど
この心が時折重荷になるのも理解すればこそ

ただ一人闇夜に沈み込むを。



2003.4.3(Thu)

「遠き、時の彼方より。」


言霊を操る者は、時折
言霊に弄ばれる。

ゆらぎゆくその意と、もたらされるもの
狭間で揺れて、廻って
それはさながら舞いのごとくに。

二つを繋ぐは、音。
二つを結ぶは、響。


ただ、柔らかき言の葉に触れ
その心に触れていたい。


遠き、時の彼方より。
何時か貴方に、触れに行こう。



2003.4.4(Fri)

「闇色に輝く剣を掲げよ。」


墨炎の導くままに、絵札が告げる。
この戦に益無しと。
炎を封じた絵札が予見す。徒労に終わると。
ただ、宿命のみを。

けれど、あぁ。
戦乱の享楽以上の糧が、黒き民にあろうか。

たとい国が落ちようとも。

この身が在るは、国でなく黒き大地。
理想に添わぬ国へ誓う忠誠は無く…
この内にある炎は島と共に眠り、目覚める。

 『此は魔島… 我らの還る土地…』



2003.4.5(Sat)

「その無策を嘆く。」


戦の終演。
革命の勃起。
…あの予見がほんの少し、外れた事に
安堵を覚え。

失う前にその存在を気付かせてくれた
薄自たる革命者に、些少の感謝と…
そして嘲りを覚えつつ。

思いの外冷静な自分に、乾杯。


あの一時が心地良かったのは、
酔いの所為だろうか。
場にいた顔ぶれの所為だろうか。
それとも…その混沌の所為だろうか。

ただ一人、酔いに任せて眠りを貪る。


共に酔える相手が居ないのが、
少し、残念だけれど。

…この不安は…

杞憂に過ぎぬのだろうか。
遠き国の人よ。



2003.4.6(Sun)

「密雨散糸」


この身を浸すことは出来ないけれど
その柔らかな音に誘われ
思わずそっと手を伸ばす。

炎のごとき肌が裂かれ実体無き肉を貫かれても
…あぁ。
心地良い。と。

薄らいだ掌を引き寄せ嘲笑する。

天津水(あまつみず)…そに傷付けらるる
この混沌の闇、この邪炎こそ

我が棲む場所、この存在の糧。



2003.4.8(Tue)

「それゆえに闇に潜む。」


この国の混沌は、何処へ消えたのだろう。
この島の闇は、何処へ。

国など要らぬ。
王など要らぬ。

ただ黒が欲しい。

溺れるほどの
純粋な漆黒が懐かしい。

傷付けるのを厭わぬほどに
愛しく思える相手が欲しい。

自らの熱に…
この身体が、燃え尽きる前に。



2003.4.9(Wed)

「幻紫妖淡」


形骸のみを高めその在り方を繕うなど
器のみを磨きその内なる玉を腐るに任すなど

どのような道を辿ろうとも
自分を飾らぬ生き方はそれだけで美しいのに。

自らを偽るな。

言霊は情景を騙るものではない。
ましてや周囲を騙すなどと。

散る桜のように。
無音で語るが良い。

誇り高く。



2003.4.10(Thu)

「近く遠く感じるもの。」


青き翼がある。
空のごとき孤高さで
虚空のごとき刹那さで
ただ自由求め舞い上がる。

その背には深青の翼。
魔島の空さながらに。


藍き水面を見る。
微かなる音にも震え
奥深くに強き甘き想い宿し
ただ染まる、紺碧の色に。

その瞳は藍玉の冴。
硝子の蒼華さながらに。


艶やかな華を見る。
風雅に在りて咲き誇り
喧騒にさえ彩失わず
ただ酔狂を粋を求め。

その色は生命を為す。
香る輝石さながらに。



2003.4.11(Fri)

「弓張月の鏡。」


破鏡が傍ら 輝く白銀の弓月
自らの姿映す。

闇に沈む身と、燃え盛る身体。
排他的な心と、熱を言の葉を求める心。

様々な姿見せるこの炎。
対極たる面、背を合わせ佇み。

我は我が念うゆえ 自らの姿を知る
 宿命を越えて自分であれ、と。

我が我であるための誇りを思い知れ。



2003.4.12(Sat)

「花盃」


知られぬ場所が在る。
ギンス山を深く分け入り
奥深き洞窟を過ぎ。
地を下り降り立つ場所。

光射す一角にのみ、誇れる花。
数百年の時を生き
孤高の美しさ湛え
そは今年もまた…

一人、木と語り。
月下の元時を過ごす。

傍らには杯と葡萄酒。

…こんな夜は、一人
仄かな幸せに浸る。



2003.4.13(Sun)

「銀月飛閃。」


一人月を見る。
同じ月を見る者がどれだけ居ることか、と。

あの白銀の天球儀に
想いを託す者の多きを思う。

言の葉を彩るは人の想い。
時にはたった一人のため
知らず詩を紡ぐも良いだろう。


その心が
裂かるる痛みを知るがゆえに

その瞳が
宿す想いの数を見るがゆえに

求めつつも手を伸ばさず。
応えども求めず。

この身も、また
裂かるるを怖れ
幾多の想いを宿すがゆえに。


…けれど。


時折、狂おしいほど
貴方を手に入れたくなる。



2003.4.14(Mon)

「限られた夜の中で。」


言葉を弄び
心を弄び。
人を遊び 姿を遊ぶ。

めまぐるしく飛び交う言葉に
惑い 惑わされ
そして酔う。

酔いの果てか、気まぐれか
差し伸べられた腕に
途方もない拒絶感。

あぁ…またしても。
過ぎた時に縛られるのか、この身は。

自嘲して気付く。
「特別」には、なりたくないのだと。

その言葉が示すものを知りつつも

決して叶わぬこの身と心の
理不尽さを ただ、嘆く。


季節は初春。
別れと出会いの刻。



2003.4.15(Tue)

「己を喪えば人を喪い
 人を喪えばまた物を喪う」


指先の熱を懐かしむ。

その言葉は心地良く
その存在は甘く

溺れそうなほどに。


近付くな、との、警鐘は
容易く聞き流されて
また
心を委ねる。

手に入れられぬのでは、無い。
自ら求めるを戒めるのみ。

その言葉に偽りは無く
その心に偽りは無かったとしても


「貴方」は「俺」に


ナッテハ イケナイ――



2003.4.16(Wed)

「桜花紅」


竹を削りて竜笛と為し
その音に浸り
その響きに相応しきは

彩の國。

一歩足を踏み入れれば
目映いばかりに色溢れ。

闇に染まる此の身だけれど
ほんの少し、心が軽くなる。


風に舞う薄紅の
愛おしきかな。



2003.4.17(Thu)

「月に狂う。」


風趣を解し愛すも。
色を好み堕ちるも。
炎を受け爆ぜるも。
闇に沈み黙するも。
楽を奏で吟ずるも。

種々に色を為す炎
宿りて一際強きは墨色なれど
総てはみな、この身の在りし姿。

自らの姿に翻弄されつ
娯しみて望月夜
白金の天球儀見上げて

刹那の刻を


鎮まれ…

この身の焔よ。



2003.4.18(Fri)

「十六夜月に焔舞い。」


刹那の粋に別れを告げて
魔島への帰路に発つ。

時折紫煙くゆらせ
月と風と語りつつ。

清々しき望月よりは
少し翳った十六夜が
俺には好ましい。

欠けゆく月に
微かな寂寥感を抱きながら

また闇の道へ、
一人舞い戻る。



2003.4.19(Sat)

「沈黙の歌が響こえる。」


星月夜を縫うように
穏やかな風に乗り。

耳が痛くなるほどの
沈黙の 歌。

ただ、ひたすらに
奥底で求めて居る
深く強く求めて居る。

…この心に触れてくれと。


けれどそれ以上に
失うことを 変えることを 懼れて
届きそうなその背から
敢えて目を背ける。


一人
風の夜に佇み

貴方の痛みを 嘆く。


選べぬ道のその先で

沈黙の歌が 響こえる。



2003.4.20(Sun)

「千年でも変われない。」


ふと。
昔を思い出した。

まだこの片目に光が宿っていた頃。

畏怖すら感じるほどの「漆黒」に
捕らわれ過ぎていた
あの頃。

この身の紅蓮を愛おしみ
この炎の熱さえ受け入れて

そして消えていった。


恐ろしいほどに
美しい 人だった。


あの時 既に
時間は止まっていたのかも知れん…



2003.4.21(Mon)

「叫喚」


黒き島の喧噪が懐かしい。
ほんの一巡り離れていただけなのに
それほどに飢えていたのか、と思うほど
それはあまりにも、懐かしく。
あまりにも、愛おしくて。

国に捧げる心は皆無だけれど
この土地を喧噪を
俺は慈しむのだと

……最早

応えの無いものに捧げる心しか
残っていないことを

…少しだけ 自嘲しつつ。


愛おしき大地に酔と眠る。

たまには…
夢を見ても、良いだろう。



2003.4.22(Tue)

「別了。」


幻想無き世界に
陽炎は生きられない。

選択の自由すら与えられぬ国に
混沌たる自由さえ望めぬ国に
俺が居る、意味は無い。

傲慢たる光に目が眩み
懈怠を生ずる光に溺れ

大地が大地であることを忘れた国に

今宵、別れを。


愛おしき暗闇は
…もう、何処にも無いのだろうか…



2003.4.23(Wed)

「天夜弥」


天満夜(あまみつるよる) 長きに渡り
月華星辰 砕けて散ず


……

その心が誰よりも 国を愛して
誰よりも 憂いて居ること

俺は貴方を信じている。

親しき人、一人
その安らぎのためならば

俺の自由など…いつでも捨ててやろう。

それが
自由人たる詩人の
この俺の生き甲斐。


時折、自らに溺れるけれど。



2003.4.24(Thu)

「惑。」


この身をひとかたとして
この言霊を形依となし
その支えとなり盾となれれば
どんなにか。

然し身一つにて行動するには
あまりにも名が多すぎ
言霊もまた
多くのものを含みすぎ

ならばならば
せめて

ああ。
無駄に終わっても構わない。

たった一人のため
国を出て剣を握るも良いだろう。

もしも…
この戦、終わらぬのならば。


詩人とは
心動かす者の僕。



2003.4.25(Fri)

「闇夜思索」


少しの間、仕事を任せて
三度魔島を出る。

行き先は……。


数日の時間が恨めしい。
間に合うのだろうか。
…否。
行って、俺に何が出来ると言うのだろう。

徒労に終わるだけかも知れない。
どうにも出来ない距離を、また
思い知るだけかも知れない。

…けれど

内より流れ出ずるこの衝動を
どうして愚かと抑えることが出来よう?


一個人として。
一個人の力に。

…それが、叶うのならば。



2003.4.25(Fri)

「呟。」


罪でもない。
咎でもない。

それは「貴方」であるがゆえに。



2003.4.26(Sat)

「彩為す言霊を。」


どんなに言葉を重ね連ねても
伝わらぬものはある。
その手を離れた言の葉は
人の多さに倒錯し
ねじ曲げられ、弄ばれ。

真偽も、罪科も。
すべては歴史が判断するだろう。

ならば今は
己が信じる道を純粋に。

そこには悪意も 流言も無く
ただ…
自らの望むものだけが。


…大切な人へ。
此の身は 言霊を裏切らない。



2003.4.27(Sun)

「闇夜に焔の安らぎあれ。」


故国での革命。
けれど、憂いは無い。

狂乱も混沌も、黒き大地は
糧と為し娯と為して、成長するだろう。

そは…愛おしき魔島の姿。
けれど今は。

再び、彩華の地を踏みしめる。
言の葉を発することはないけれど
これより暫し…
この身が行いはただ一人のため。
一人が愛おしむ国のため。

その背にて静かに
彩を粋を、義を華を
守りゆく焔とならん。

此の存在を忘るること莫れ。



2003.4.28(Mon)

「暁光ノ翼」


色褪せた翼 広げ
黎明の空に 発つ
あの風の側へ

千切れかけた翼 庇い
果て無き空を見ゆ
逢えぬ天を想い

片翼――失墜する黒天使
夢果つる 暁光の空
天空へ腕伸ばして…

血染めの翼 風を受け
息吹に癒しを知る
涙溢れるにまかせ

想い紡ぐ言の葉
彩る弦の音
黒白の翼広げ 詠う

――たとえ至高天より追われども
羽ばたく空は ここにある――



2003.4.29(Tue)

「躊躇うよりは。」


夜に至りて微睡みを想う。

失い難きはその存在。

どれだけ祈り願いつつも
腕を伸ばし切れぬ此の身が
抱き寄せられぬ此の身が
思い切れぬ此の身が

…ああ。

貴方の為ならば、俺は堕ちても構わないのに。


笛の啼くにせめて……



2003.4.30(Wed)

「吟。」


夜闇の尽きる刻
差し延べたその指
掠めゆく微かな彩
眠りへと導き

暁光に残る残像
瞳の内に留めて
振り返るその先
炎奏で詠う


……
少し
惑いがある

ほんの少し。

けれど今は…

忘れておこう。



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