2003年5月
<<Back | Next>>

2003.5.1(Thu)

「RavenShadow」


気付いてみれば…
故国を出る者の、多いこと。
まさかに俺が原因、というわけでも…

…否定仕切れないのが、少し。


紙作業に追われつつ その空白時間
暫し夢想に身を任せる。

我らが掲げるは黒の旗印
剣は国ではなく、この大地へ捧げるもの。
我らが在るはこの大地
他に国を得ようとも、帰参ずるは魔島の大地。
我らが宿命は闇の宿命
侵さず侵されず、ただ魔が魔であるために。

彩の国が
彩の国に棲む人のものであるように

この身は黒き大地へ。

出来ることも、
出来ぬこともあるけれど

国を負う人…否
俺にとって大切な人のために
心は、変わらず。

在り続ける。


金色の双眸
消えない面影
何故貴方はそこに在るのだろう。
答えを……。



2003.5.2(Fri)

「無月散星」


月の無い夜。
それゆえに顕かに
瞬ける星辰の数々を
異国の地で眺める。

昔、昔…
初めて契約を交わした相手は
恐ろしいほどに冷たく 美しく
その声に言葉に存在に
ただ溺れていた。

炎の熱も痛みも…教えてくれた。

闇の漆黒に思い出す…。
狂うほどの 想い。

だから今宵
酔いに任せ筆を執る。

衝動に任せ誰かの腕を捕り
この胸へ導くことの無いように

固く固く
…戒めて。



2003.5.3(Sat)

「花喰ヒ鳥。」


何故だろう。

狂いそうだ。

破鏡の闇も過ぎ

惑わしの満つ月も遠いというのに

何故 だろう。


待ち続ける金の瞳と漆黒ならば
この身の望むものを与えてくれるのか

それとも一時の安らぎを
通りすがる誰かに求め堕ちるのか

……否

どちらも出来ぬ、為されぬ。

堕ち切れぬはこの身の戒め

自らを虞れるがための。


花喰ヒ鳥の啼き声に
倒錯のまほろばを聞く。



2003.5.4(Sun)

「瞥」


さてはて。
ここ数日の自我不律の謂われ如何に。
寂、愁、或いは恨か悋か。
自らの想い定め切れずに落ちるものかは。

己が身の想いなど今は無に等しき。

只。

夢幻を否定するも良かろう。
既に在りし栄誉と行為に頼るも良かろう。
然れども覇道王道を歩みそを為すは
志と心無くしては叶わぬことぞ。

それとも汝
心無き傀儡、冷徹なる支配者を望むか。

世界は国は
一人のものではない。

せめて許容を。


…と。
執事殿が魔島へ戻るらしいな。
…嬉しいが…
果たして今の魔島…
見せられるものならば、良いのだが。


それでも俺は
土地を、愛するだけ。



2003.5.5(Mon)

「愚かと自嘲しつ。」


垣間見るも良い
訪ね来るも良い
飾らぬ場所があっても良いだろう

酔いに任せて
どこまでも墜ちてしまえ

心は嘘を吐くという
時折嘘を吐くという

偽りに酔うままに

砕け散れ

無くば感じることも無い


月の刃指添えて

また一つ封じる


…触れることなかれ
…触ることなかれ
…近付くことなかれ

共に墜ちたくば、来るが良い。



2003.5.6(Tue)

「酔いに狂う。」


どうやら、ここ数日。
少し悪酔いをしていたらしい。

俺は余り、愚痴を言う事が無い。
元から、そういう思考が無いのかも知れぬ。
或いは気付いていないだけか。

代わりに人の言葉を聞く。
そして心を添わせ。
同調し、同化して。
欠落した何かを埋める。

…ま、それはさておいて。

酔いに流されるも存外、心地良かったので
暫くは、未だ。

但しそれは
目に見える場所で。



2003.5.7(Wed)

「朧風」


おぼろげに繋ぐ
途切れ 途切れの音-on-
その儚さに添わせ
月華の元 詠う

朽ちて果てるは
消える 季節の名残
過去に酔うがごと
静寂 纏いて眠る

己が身を包み込む
漆黒 闇の焔
導くはただ奈落
甘言 連ねて堕落

おぼろげに紡ぐ
途切れ 途切れの言-gen-
その偽りに抱かれ
今は君 安らげよ



2003.5.8(Thu)

「預かり物。」


氷玉、酸玉、血玉、毒玉。
ちょっとした経緯で、
四つの玉を此の身に預かる。
…水精に口付けられて。

意図が判らず困惑するのは…
野暮だろうか。
それとも…。

異質なるものよ。

俺は何をすれば良い?
何を伝えれば
何を想えば良い?


人と関わるたび、自我の失せるこの身
最早、自らの想いすら定まらぬ。

求め待つ主は影。
想い続ける相手は過去。

…すべては倒錯の内に。



2003.5.9(Fri)

「想い風の律べ」


それは昔 昔のこと。

延ばした手の先 差し延べられる腕
届く距離を恐れて
指先を伸ばせずに

いっそ強引に堕としてくれればと願った


俺の姿と貴方 重なる。


少し考えた
少し動いた

けれど俺に与えられるは
一時の忘却 一時の安らぎ

知らぬ方が幸せだとも。

風に乗りて微か
水面のさざめきを嘆く。



2003.5.10(Sat)

「記憶輪廻」


肉体的な嫌悪感は無いけれど
精神的な拒絶感を生ずるもの

冗談だと笑い飛ばそうとしても
唇に張り付いた笑みぎこちなく

好きだとは言えないが
嫌いではない筈なのに

未だこの心に影を落とすは
かつて名を与えてくれた主

忘れられぬ自分を愚かと笑い
鈍い痛みを日常と抱き留める

こんな俺を貴方は嘲笑うだろうか。



2003.5.11(Sun)

「」


ただ見守る。
移り変わりを
玉座へ就く人を

国に交わらず
ただ一人として。

公の場に在りて一個人として
そうして生きれる場所があるのは
どれだけ幸せなことか。

俺の手は此処にある。

胸に一人
入り込む余地を常に 残したまま。



2003.5.12(Mon)

「甘言。」


逃れるための酒のつもりが
いつしか粋人との語らいと

気紛れな巡り合わせに感謝しつつ。

喉から身体へ
身体から脳へ
そして心へ
また身体へと

巡る酒気の甘さに…否
麗人の言の葉にこそ心地良く酔う。

傍らの存在に
喧噪生ずる場所に
心よりの感謝を。


ただ危惧するは
押し込めた想い

酔いに露呈せねば良いのだが。



2003.5.13(Tue)

「夢宴。」


声無き宴に華添えて
廻り始める 唐紅
祈りも願いも泡沫と
水面に告げて 花と散る


…。

待つだけ無駄だろうか。

それでも屹度俺は
待ち続けるのだろうな。


国民に包まれる貴方を遠くから観る。
その座にありてもこの隻眼に映るのは
枠など無く、ただ一人のその姿のみで…

愛せる国があるのは少し羨ましい。
俺には、大地があるが。



2003.5.14(Wed)

「国など要らぬ。くれてやる。
 黒き大地を俺に呉れ。」


いつぞや口走った台詞をしみじみと
胸に呟き思い返してみる。

いつの間にか…
国への想いは失せ。

抱くのはただ
土地への愛着。

国にあるだけで縛られるものか…どうか。
試してみるのも良いかも知れない。

RavenShadow…
その黒耀の輝きを
影と落とせる…



2003.5.15(Thu)

「夜に溺れる。」


少しずつ。
少し、ずつ。
出立の準備を。

長く留まりすぎると
人だけでなく国にまで
情が移ってしまいそうで。

らしくもなく
不安定な熱に浮かされる。


幼き頃の自分を見た
同時に過去も思い出した

今なら受け入れられるだろうか。



2003.5.16(Fri)

「藍玉の響を懐かしむ。」


力及ばなかった…だろうか。
一人、友と呼んで呉れた人が
その姿を消した。

いや…消えては居ないのだが。
行方をくらました、と言うべきか。

狂い堕ちそうな時に
水面下で藻掻いている時に
差し延べた手を、俺がもう少し
思い切って延ばして居たら
…或いは。

……否。

己が身に当てて思う。
他を傷付くを恐れ
尚暗きを求め
闇に在りては 慟哭す。

ただ待とう。

この身は常に
「誰か」を待っている。


壬生より出立の支度。
置き土産に何を残そうかと
一人思案しつ。

驚いて 喜んでくれるものがあるなら
それが一番なのだが。



2003.5.17(Sat)

「逍遙自適。」


恋やら愛やら。
思惑を言葉の枠に嵌めることを
俺は好まない。

誰かが誰かを想うこと
それくらいは理解できるが

…何故枠が必要なのだろう。
理解 出来ない。

特別はそれほど心地良いものだろうか。

俺は在る程度束縛を好むけれど
意図的に為される束縛は不快でしか無く。

貴方を壊してまでも手に入れたいと
そう想えたなら良かったのだろうか。

だが…残念ながら。

恋よりも愛よりも
俺にとっては信義の方が、重い。


彼の國へ詩でも贈ろうかと
手帳を広げたけれど
書き留める言葉とは裏腹に
思惑は上の空。

自分の事で悩んでいる暇など無いと言うのに。



2003.5.18(Sun)

「しろがねの……」


彩雲まといて
白夜に還る

一色 受けて
その身に負う


言葉が浮かばない
情景だけ鮮やかに浮かぶのに

少し疲れて居るんだろうか。
急ぐわけでもなし…
そう、思い詰めることもないのだが。


触れた熱の暖かさを思い出す
戯れと知って抱かれるなら
それはそれで 良いのかも知れないと
元より…
心は遙か昔に縛られたまま。


しろがねの
  浮かぶ陰兔に 墨焔
      独り游べる 夜の静寂



2003.5.19(Mon)

「嘯詠。」


あまりに月夜が綺麗だったので
誘われてふらりと、散策。

遠く聞いた歌を
道すがら詠いつつ

…誰かに聞かれたらまた
驚いた顔をされるだろうか。


月を見上げて嘯詠す。


 ――ただひたすら
 ――咲いて 咲いて 散るまで
 ――咲いて…



2003.5.20(Tue)

「狂い咲き。」


黒き大地にて
狂い咲いたか 雪柳

溶けて流るる雪の上
あの山の奥深く

雪よりもなお白く
雪よりもなお軽く

はらはらと。

気紛れに触れた熱が存在が
微かに肌を滑り

降り積もる。


いっそ触れた先 戯れに
熱を奪ってくれたなら。


今宵
手の内の絵札と戯れて
それを戒めとする。



2003.5.21(Wed)

「うつろわざるもの。」


うつろうもの
うつろわざるもの

移ろは 虚ろ

虚ろうもの
虚ろわざるもの


過ぎた時は戻らず
過ちは取り返せない


嫌悪感で胸が焼ける

俺は女じゃない。



2003.5.22(Thu)

「追憶」


誰を恨むでもない

忌まわしいのは己

拒絶しつつも
在りし日の影を求め

腕を伸ばし かける

忌まわしいのは 己


求めようと 思う
手に入れたいと 願う


ただ一時のものならば
手に触れぬが どんなにか良い


…結ばれたる者たちよ
せめて
健やかに
幸せに



2003.5.23(Fri)

「春虹」


久しぶりに…
少しだけ、気分が良い。

空色の言の葉に まほろば
ほんの少し痛みを感じる方が
今は有り難い。

墨焔は夜闇に融ける。

過ぎ去る人を 想いを
ただ見送るままに。

…それでも

艶と哂って見上げた先の
空虚が酷く物悲しい

隻眼を伏せて嘲笑う。
似合いもせぬ、と。



2003.5.24(Sat)

「異姿」


自らが語れぬことを
自らが成せぬことを

別の魂 姿を借りて
為す行いの忌まわしさ

筆舌に尽くせず
何より腹立たしい

何のための器
何のための魂

その姿保てぬのなら
朽ち果ててしまえ

最低限 定められたもの
その理を曲げる行為を

俺は許容出来ない。



2003.5.25(Sun)

「痕」


手負いの獣は
その傷が癒えるまで
凝っと 闇に身を潜め

薬を知ればそれを糧と為し
ただただ静寂に沈み込む

迂闊に触れれば怯え
保身の行為ゆえに
獰猛な牙は肉を裂く


我が身も また獣
盛る焔 零れるまま
抑える術を知らず
身の内の衝動 鎮まるを待つ



2003.5.26(Mon)

「闇色の夢狭間」


見えぬ場所を詠う
見えぬ時を詠う

けれど

知らぬ想いは紡げない
抱かぬ想いは紡げない

例えそれを手にした時間が
過ぎたものであろうとも。

愛おしく想える 人を
忘れた事は無く。

…故に

時折 刹那く
狂おしいほど 飢える

付け込まれるを恐れ
闇に沈み込む一時


思いがけぬ訪れに
知らず 助けられて
…その存在に
訪れてくれたことに
救われたは 俺の方だと。

…此処で密かに感謝を。



2003.5.27(Tue)

「無限鏡廊に惑う。」


言葉を弄う。
在るべき並びで美しきものを
突き崩し、混ぜ返し。
切り刻みて並べ変えては
その響きの不条理を哂う。

枠を作られぬ生き方は難しい。

自由と言うその言葉ですら
縛めになるのならば
時折その枠を歪め
理無き世界を娯しむが良い。


自らを許容せよ。
自分で在れ。
他の誰よりも。



2003.5.28(Wed)

「狂おしいほど。」


一月と、少し。
黒き大地へ還る。
久しく見ないあの場所は
…どう変化しているだろう。
どう、変わって行くのだろう。

楽しみにしつつ
砂の都を去る。
ワタリガラスの飛ぶ影は
大地へ闇を降らすか、否か。


そしてまた、想う。
この身が周囲へ与える影響の重きを
人を揺らがせる重さを

…ならば。
ただ信の一文字を以て。

怖れないでくれ、と。
龍啼焔の背に
虹の絶える事は無いと
…この身も、信じているがゆえに。



2003.5.29(Thu)

「爪月が嗤う。」


形は様々なれど
自らを自らで定義し
その形を理想と為し

否定されれば 怒り 悲しみ
その枠へと
ただ自分のみを嵌め込む

此の世界は
細切れになった一枚絵
縦横に紡がれる糸のごと
互いが互いを織りなすもの

…然し
自らの定めた 枠に
縛られたまま…

錦為すことの出来ぬ者の
何と多いことか。


…二十八夜の爪月に想う。

狂えるほどに
堕ちゆくほどに

何度もその名を呼び
囁き告げたい。と。

それが出来ぬは
俺もまた
自らが定めたその枠に
縛られて居るから…だろうか。



2003.5.30(Fri)

「こころをひらいてめをとじて」


また、一つ。
この指先を離れ
細糸の 蝶と成りて飛び立つを
見送る

俺は只
そこに佇むだけで
変わらぬまま
一人

巡り巡る輪廻の先で
また

出会うこともあるだろう。

道標の為すべき事は 終わった。

己惚れるなと言い聞かせ。

この身は ただ
一人であるべきなのだ

言霊使いは
その言霊で人を縛る、それゆえに

一人であるべきだったのだ

永遠に。



2003.5.31(Sat)

「刹那の熱。」


ほんの少しの衝動と
過去と。
掠めたその熱が ただ

ただ、愉しくて。

魔鏡の先で微笑う その瞳に
少し自嘲して 目を閉じる。

過ぎる者と
佇む者

きっと永遠に 擦れ違い続ける。



<<Back | Next>>