2003年6月
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2003.6.1(Sun)

「星夜。」


風を枕に一人酒。
懐かしき場所 黒き大地の上で
思うままに酔い
酔うままに 詩を紡ぐ。

時折触れる熱が恋しくなることもあれど

今を以て酔い負けるこの身にては
其れは只自らの傷を露呈するに過ぎず
無意味に相手を惑わすだけに過ぎぬ。

それゆえに。

破鏡に哄笑す。
我が内の闇よ、焔よ。
願わくば共に 堕ちよと。



2003.6.2(Mon)

「うたかた。」


刹那の熱を逃したくなくて
思いつく限りの言葉を並べ

…あぁせめて

せめてまほろば
それともうたかた

一時触れたその熱を
想い出と記憶して。


時を経た証
 消えて行く幻想
見えない扉過ぎるたび
 ひとつ ひとつ
置き忘れる 言葉


…久しぶりに
心地良く酔った。

虹を纏う龍に…
…最初で最後。

貴方が愛おしい。と。

それは、うたかたの夢。



2003.6.3(Tue)

「月の馨に沈む。」


落ち着いたと思えば 狂い
狂ったと思えば 沈静化し。

自らの心が動くに翻弄され
…愉快なほどに。

光満ち始めた月を見上げ
腕を伸ばして喚びかける

留めおけ 留めおけその姿
我が身でなく
月恋し人の為にと

けれど

佇み続けるだけのこの身
届かぬ腕は鎖にも成らぬ。

さてさて。

今宵月の馨に沈む。
自嘲を胸に。



2003.6.3(Tue)

厭な予感がする。
明確に何とは判らないが
ただ漠然と

宮殿の前に立つ度に
この身の奥底に影が落ちる

ただ不安だけが。

杞憂に終われば良いが
…否
終わってくれ。

俺は未だ
この国に刃を向けたくは無い。



2003.6.4(Wed)

「四日月の破鏡、薄紅に染まる。」


自らの甘さに辟易する。
その存在だけで支えになると
解っている筈なのに。
近付きすぎるを怖れ。
その熱に溺れるを畏れ。

自らの思惑のみにて
この身を引く 甘さに
後悔してもどうにもならぬ。
…けれど。


書庫の窓から空を観やる

あの月を貴方は見たろうか。

薄紅に染まる
破鏡を宿した刃月を。



2003.6.5(Thu)

「睡夢。」


差し伸べたその先
触れた熱を
引き寄せて抱きしめて
快楽(けらく)に堕ちる

刹那の契約
それとも約束

透かし見る瞳
閉ざされる瞳

夢でもなくまほろばでもなく。

もう一度、と云ったら
貴方は哂うだろうか。

無機質な冷徹なその優しさが。
ただ懐かしく。



2003.6.6(Fri)

動かぬ片翼 その背に負って
空虚な祈りの言葉を紡ぐ
目指す空-ソラ-さえ分からぬままに
天を見上げる鳳のよう
 ……羽ばたく翼は何処にある?

失くした片翼 探しもせずに
鎖に繋がれ足を引きずり
幾度も目にした景色を再び
濁った瞳の奥に焼き付け
 ……鎖の千切れる時は何時?

空を仰いで 高く一声
雲すら陽光(ひかり)の妨をして
新たな道を示す夜明けを
遠く 遠く ただ待つばかり
 ……導く光は何の為?

歩き続けて 固い地面に
素足の痕 刻みつけつつ
それでも唯一確かなことは
終わらぬ夜は一度もないと
 ……信じていられるのは何故?



2003.6.7(Sun)

「月に群雲、風に花。」


人は昔、空を飛べたと
風は囁き…通り過ぎる。

今 空を舞い飛翔すは
人の想いのみ…

安らげよ

安らげよ 魂

迫り来る刻止の定め
めまぐるしく動く現世
その決断さえ鈍らせるほど
心が疲れて居るならば

安らげよ。

その為になら俺は
何でもしよう。

月に群雲、風に花。
時にはゆるやかな流れに
その身を浸せ。



2003.6.8(Sun)

「時と時の争い。」


古い馴染みの顔触れを誘って
懐かしい一時を。

けれど何処かしら違う、と思う自分が居て
今ひとつ楽しめない自分が居て
変わったのは、自分なのだと…
判っては居たことだが。

それでも
楽しめた、だろうか?

…気付くと
感情を失くしている俺が居る。
誘われるまま思い出すまま
あぁこのときはこうしたと
笑い、悲しみ…
そのペルソナを。

俺が俺で在ることは確か
けれども今は
自分が解らない。



2003.6.9(Mon)

「金色を秘めた漆黒へ。」


待ち人、一人。
正直諦めかけていた
期待すればしただけ
落胆が大きいのだから
もう望むなと。

それでも
待つことを止めるなど、出来ず
待ち続けて居た。

だから

貴方の帰還が、今は
何よりも嬉しく、有り難い。

その関係が変わることは
永遠に無いけれど
俺は其の貴方を待って居た。

…有り難う。


そして、もう一人。

瞳を閉ざして幻を呉れた、貴方にも

…たった数日
たった数日だけれど…

刹那が無ければ 俺は
一人朽ちて居たろう。
…それ以上の言葉は 要るまい。



2003.6.10(Tue)

「修羅。」


数ヶ月前からの憂いを払拭しようと
漸くに重い腰を上げる。
憂う事象がある。
どうにかする力がある。
動けるのならば
…今動かぬ理由は無い。

それが例え諸刃の剣を握る事になろうと
世界構築期からの苦言、諫言役。
今更何を怖れることがある?

甘く、包み込むだけでは
世界は為されない。


…さてはて。
少しの変化と、変わらぬままの箇所。
一体何を示すやら?
胸の痛みは
恐らく、悔しさ。

そう思ったのは、刹那。

立ち上がって微笑って

…俺はよくよく
人の心に自らを同調させるが、得意らしい。



2003.6.11(Wed)

「夜毎の死から目覚めれば。」


今の主が戻り。
かつての主の面影を微かに、追う。
通うものはただ
色彩でしか無く。

どれほど妄信的に尽くそうと
そこには
愛も恋も生まれることは無く。

応え無き相手に
ただ心を捧げる。


此の空虚を埋めるのは
永遠に擦れ違い続ける存在
行き過ぎる風

時折苦痛とも為りうる
刹那の熱

関わる人全てに…
俺は救われて居る。



2003.6.12(Thu)

「調停者は常に冷静で在れ。」


一つの幕引きを覚悟し
動ける範囲で最大限の行動を

個人としては
古き馴染みの顔触れに位置すれど
彼の場所に在る此の身は公。

きっと、今の俺は
冷たい貌をしているのだろう。
心を持ったまま決断を下せるほど
俺は器用でも強くもない。

だが…其れで良い。

人を裁ける力は俺には無いが
判断の正否は時が決めるだろう。

密かに。
静かに。

賽は投げられた。
後は結果を。



2003.6.13(Fri)

「境壁。」


陽のある内は公の仕事を
闇に沈みて己が為すべきことを
眠りに在りてただ忘却を

関わらぬと明言して
どの立場にも属さず
けれど苦言、諫言のみを呈す
…俺は卑怯なのだろうか?

頭を悩ますは
個人の為だけにしておきたいのだが。


虚空に腕差し伸べて囁く
焔に堕ちよと。

言霊捧ぐ相手は いづれに。



2003.6.14(Sat)

「ゆらぎ。」


限りの在る身にて
久遠を望むは禁忌

ならばせめて
その一瞬こそ永遠なれ。



2003.6.15(Sun)

「−虚空−」


魂込めぬ言の葉は
ただ、器でしか無く

身に置いたままではこの内から
焦がれ
焼かれ
尽きそうなその言霊
せめて音だけでも

口の端より紡いで

この身はうつろ

心を待つ

うつろ。



2003.6.16(Mon)

「薄らいだ腕、見つめ。」


憂いが払拭出来たわけではない。
けれど決断を…

幾度も言葉を変えて積み重ね
そして為された結果。

まだ暫くは
この手を離すわけには行かない。

それにしても。

公の名は鬱陶しい。
決して心地悪いものでは無いが
その名はこの心を縛り付ける

確かに…
望んで束縛に身を置くこともある
……否

糧となり束縛となる対象が居らねば
この炎は尽きるのだろう。
然れども…


心を持ったまま何かを裁けるほど
俺は器用じゃない。



2003.6.17(Tue)

「月降窟を想う。」


もたらされる混沌に願う

正しく混沌であれと
正しく闇であれと
正しく魔島であれと

然し

何を以て正しいと称すのか
俺には未だ
国の形が掴めない

判らないのも、道理…

内なる個を視ることしか
俺には出来ぬゆえ


立待月。
久しく奏でて居なかった音を奏でる。

思い出して また
彼の場所へ行こうか…。



2003.6.18(Wed)

「理。」


言の葉に魂を宿し
そこに在れと望めば
言われるまま存在す
忌み名のごとくに

けれど
其が万能であることはない。

音を発する者の
想い
願い
祈り

それらを超越して存在す

理。

証を為すもの。

我らは等しく
言霊の副産物。



2003.6.19(Thu)

「美季礼賛」


ざわめく木々の囁きに
誘(イザナ)われては蝉時雨
吹き往く風は熱含み
蒼穹碧く染め上げる

大地の蒼きに横たわり
生命たぎらすこの季節
闇夜の藍に華散らせ
星と降らせる夢模様…

…と。
魔島の夏はまだ遠いが
想い馳せて詠うもまた由。

…俺は
陽光を好まぬけれど。



2003.6.20(Fri)

「過ぎ去る者よ 識って居るか
 遠い未来の其の在処を?」


湿り気を帯びた風に誘われ
普段足を向けない岬へと
一人龍吟を携え
髪を嬲る風に霞めよと
音澄み渡らせて

暫し無造作な静寂に浸る

世界は刻々と変わる
俺は佇んだまま
静かに見送る


『待っています』

口には出来ない、甘い嘘。



2003.6.21(Sat)

「星間飛翔線」


区切られた正方形 白点ちりばめ
煌めいて星 翔る
眠る街 静かに目覚め
灯火吹き消す冷気に空見やれば
闇溢れて流れ落ちるよ

瞬ける半球 光の欠片たち
星天を彩り 満ちる
万華鏡 零したような空
見上げて吐息一つ印し
太陽の軌道にすがる

闇色に輝いて光翔るよ
自らの軌跡 趨らせる刹那
星海に融ける虹の爪痕


………夢を見た。
空から墜ちる光条を追い
行方を探る……

…傍らの熱と 二人
一日…静かに夢を。



2003.6.22(Sun)

「条。」


一筋、二筋……
細糸為して空へ渡る存在に酔う。

其れは何処までも
他の追従を許さぬように凛と
張りつめて 三筋、四筋…

俺は佇んだまま
熱に糸に
指伸ばし触れることしか出来ないけれど

其の存在は穏やかで
どこまでも穏やかで

手に入れられぬ刹那さに

締め付けられる

冷たい 熱。



2003.6.23(Mon)

「」


様々な想いを浮かべ
一つ 一つ抱き留めて
そっと空に解き放つ

在る一つは青く
在る一つは黒く
在る一つは翡翠に 黄金に

実体無きがゆえに強く
実体無きがゆえに脆い
気紛れな紅蓮を濁らせ

触れ得る刹那にかき消えて
忘却の彼方へ誘う


我はまほろば
世界を聞き
世界を映すもの



2003.6.24(Tue)

「雫」


濡れた空にふと思い出す

光宿した隻眼
闇に捨てたその所以を

自戒であり自責であった
自らが背負い生まれた炎の熱を
憎悪し嫌悪して

いっそ炎を纏わぬ
漆黒の貴方に成れたらと
激情のまま抉り抜いて

捨てきれなかった
あの頃の事を。


時は流れ
人は変わる

あの時と今と
俺は何が変わったろうか?



2003.6.25(Wed)

「詠」


風を詠い
月を詠い

一人

まほろばの鳥と戯れて


封じる想い一つ

忘れてしまえ。



2003.6.26(Thu)

「失われた彩画」


ゆっくりと、時間をかけて
少しずつ…直して…
待つ心算だった
けれど。

少しばかり気付くのが遅かったようだ。

色の抜け落ちたまま飾られた彩画は
軋み、撓み、悲鳴を上げて

崩れた欠片を一つ、
嵌め込んだそばから
その両端が崩れ落ち

なすすべも無く
最早一人ではどうにもならぬと
散る今際に口付けて

砕けた彩画 そっと眠らせる


色を奪った残酷なる客人たちよ
空虚なる額縁に汝らは何を想うのだ?



2003.6.27(Fri)

「幻夢月」


思いがけぬ優しさと
甘い言葉と熱

溺れて朽ち果てそうになるを
留めるも亦た 熱と言の葉
煽るも亦た 等しく

酔うか堕ちるかその狭間の
幸福に刹那浸り

色彩と 酒に酔い
熱に酔い 漆黒に堕ち
風に縋りて 臥る

見渡す限り一面の黒に彩為すは
虹霓 碧華 青き風 そして金色


一夜の内に得たものは余りにも多く
眩暈すら覚えるほど

黎明に掛かる爪月よ
俺は今 満たされて居る。



2003.6.28(Sat)

「暗夜」


未来秘めたる幻月を
映せる刀剣 舞う詩は
輝石に描く時のごと
我らの記憶に彩添える

織りなす彩を錦とし
一つ重ねる鳳の暦
迎える朝を受けて今
輝く世界の明日を視る


偽を義と騙る国の王の言葉に
偽りの正義に酔い侵略を正当化する国に
途方もない苛立ちを覚えつつ

何をするにも心が付いて行かぬ夜
音の赴くままに詩を吟ず。

…未完成。



2003.6.29(Sun)

「夜闇に焔翳る」


異国の酒に一人
闇月眺めて一人

静寂の心地よさと
静寂の侘びしさと

久しく感じていなかった事
今更ながらに思い返し

淡く笑って一人

書と歌とに沈む



2003.6.30(Mon)

「」


納得出来ぬものを理解する
理解出来ぬものを納得する
即ち許容と言う

難しいのは
納得も理解も出来ぬものを
如何に受け入れるべきか

必要は無いのやも知れぬ
義務も無いのやも知れぬ

だが
受け入れねばならぬ時が在る



紡ぐ詩の為めに。



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