2003年9月
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2003.9.1(Mon)

「巡」


空を巡り天を翔る風
悠久の時越えて輪廻(まわ)る
大地を駈け水面を渡り
遙かな記憶を奏で…

朱(あけ)に染まりただ暮れゆく空
等しく土の色も塗り絡めて
都の喧噪も戦場の静寂も
今は過去の壁に刻みて…

夜明けに何を望む?
不変の平穏 改革の鐘
まどろむように流れる時の
刹那はこの歴史とも似て

ゆるやかな静寂を夢みる…



2003.9.2(Tue)

「紅蓮」


『笑いなさい哂いなさい嗤いなさい。
 狂気の如く狂喜のごとく。
 この麗しき星空へ喉晒し
 高く遠く哄笑なさい。
 微笑んで頬笑んで剣を取り
 穏やかなままその刃尽き立てなさい。
 堕ち逝き狂い往く世界を娯しみなさい。

負より生まれ出でし国へ来たる
負より生まれ出でしモノたちよ
その腐肉さえ我らは糧と為す。

 笑いなさい哂いなさい嗤いなさい。
 狂乱の宴へ失墜するままに。
 このいとおしき黒き地へ佇みて
 心赴くままに愉しみなさい。』



2003.9.3(Wed)

「」


 欠落を抱える者が居ると云う
 痛みを感じれぬ者が居ると云う
 人に在りて人に在らず
 色彩を色彩と見れぬ者

 俺の世界は
 そうした『欠落』さえ内含している。

 目に映るすべて
 手に触れるすべて
 心震わすすべて

 関わる全てが俺の意識と為る

 だから時折 無意識に或いは故意に
 虚ろなる傀儡のよう
 振舞うことも出来る。


―目モナイ
―耳モナイ
―匂イモ味モ
―暑サ寒サモナイ

―在ルノハ只墓。



2003.9.4(Thu)

「朧風」


紅の月が嗤う
けれど愛おしく

雲流る夜空に一人
身を晒し膝を抱え

こんな夜も良い、と
静かに笑い詠う

そしてまた思い知る
この隻眼に映るは
この心動かすは
唯 個人のみだと。

紅月にひとり
時を止めて詠う。



2003.9.5(Fri)

(焼失)


2003.9.6(Sat)

「流動。」


何やら俗世が騒がしい。
黒の国を崩壊させるとか解体するとか、
そんな話も流れで耳にした。

壊れるなら壊れてしまえ。

幾度破壊されようが
土に根付く者の意識までは消えるものか。

そう、思いつつ。

ただ愉しむ。
その混沌を。



2003.9.7(Sun)

「」


満つ月が近い。

酔いに任せて傍らを往く、
共に見上げた月の傍

紅蓮に輝く星一つ。

此処数日、月が紅く見えるは
もしやするとあの星の所為かも知れぬと

ぼんやりとそんな事を思う。


満つ月が近い。



2003.9.8(Mon)

「Dias」


刹那触れ合い
刹那溶け合い

行き違い 擦れ違う
交わらぬ二重螺旋

背合わせのまま佇む鏡

恐らく変わることもなく
それでも安息を得る。

ふと気付けば
未だ道も無く

けれど振り返るまでも無い。
俺に見えぬ場所は 貴公が。



2003.9.9(Tue)

「双蛇」


かつて予見した
魔島に仇為す者
その結果をふと 思い出した。

焔の先に見いだしたは
寄り添う二つの影
そして、蛇

焔は正確に予見した。
ただ 俺が読みを違えたのだ。

皮肉な絵札を弄びつ
彼らの目的に思いを馳せる。

倒し甲斐のある国と云うは
倒す理由のある国と云うことだ
潰すに値するだけの理由を
潰す為に付け入るだけの理由を

彼らは作りに来た。

この黒き島へ。

心せよ。
忘れてはならぬ。

国の道を定めるは
国に生きる者のみと。



2003.9.10(Wed)

「酒に盃、月に唄。」


十三夜。
一人盃傾けるか、と
語る相手も無く、ふらり。

彷徨う先に誘われ
唄人集いて連歌。
気付けば唄も久しく。

粋の一時に別れを告げて戻れば
夏の風花、揺らめいてかき消え。
金色に彩られる月の淡く笑う。
水底で花は瞬き
形ある闇は気紛れに手を伸べる。

そんな、夜。

しみじみと思う
幸せだと。



2003.9.11(Thu)

「いつか どこかで。」


『幾度死んでも 幾度生きても
 必ずあなたに巡り逢い』

 遠い昔
 歌った者が居ると云う。

『私の持ちうるすべてをかけて
 必ずあなたを愛すると』

 幾度も繰り返される生命の奔流の中
 巡り逢い 別れて
 そして終わらない永遠を知る

 いとおしさも
 せつなさも
 溢れて零れるほどに。

『誓いましょう
 愛しい風−あなた−』



2003.9.12(Fri)

「月満チル」


書斎から出て、空を見上げれば
眩しいほどに輝けるは 望月。

煌々と 燦然と
黒き大地の遥か天上に
銀の光持ちて。

玻璃杯に葡萄酒注ぎ
円月に掲げて干せば
透き通る夜闇の音
焔の身に染み入る。


今宵を支配する月よ。
気付いて呉れるか。

伸ばしかけた手を引き戻すは
その遠さゆえにと。



2003.9.13(Sat)

「久遠転生」


Drain you of your sanity.
Face the thing that should not be.

Fortune fame.
Mirror vain.
Gone insane.
But the memory remains.



2003.9.14(Sun)

「Geist」


人は夢を見る生き物だと
昔 昔に耳にした

半分は 夢
半分は real

そうして生きるが 人だから
まほろばとして生きるお前は
その夢導く存在であれと

俺の身体には
確かなものは何一つ、無い

不確かな感触
不安定な意思
それでも この心はこの身形作る
俺は夢幻の具象

心を夢をまほろばを否定するは
この身否定されると等しい。

夢を見ながら 現へ生きる生命よ

俺は貴公等が羨ましく
そして、少し疎ましい。



2003.9.15(Mon)

「幻想都市」


青い光に映しだされた
透明な檻の向こう
足を止めて目を向ければ

叫ぶ獣人
伸びた爪 鋭い牙
髪は白く 肌はまだらで。

濁った眼球 泥にまみれて
汚れてくすんだ身体に
所々残る傷跡 肌の継ぎ目のように。

潤んだ瞳に涙はなかった。
緑青色の爪は不自然な輝き。

………哀れな。

呟いた声をその目が見据える。
懇願の瞳、掠れた声。
そんな目で見るなと、言わんばかりに。

崩れてゆく硝子片。
檻の中からまろび出た動物。

伸ばされる腕。
硬い皮膚 すべやかな爪

暗い回廊を走り出せば
鳴り響くサイレン、叫ぶ人の声。
自分ではない、弾む息。

抱き上げた軽い身体、驚いた瞳。
涙を流せぬ身体だった。

駆け抜けたその先は、荒野。

幻惑の彼方。



2003.9.16(Tue)

「片翼」


甘く 甘く
どこまでも甘く
囁きかける
安らげよ 魂
望むままに安らげよ
それがどんな姿でも
腐敗し朽ち果てようとも
この手で抱き締める
幾度も口付けて
望む言葉紡ぐ

意志無き傀儡のように
心なき人形のように

混沌の闇へ堕ちるも
力得て甦るも

すべては己次第。



2003.9.17(Wed)

「鈴音ひとつ」


鈴音がひとつ りぃんと啼って
欠けて満ちゆく月が零れる

巡りて正気
留まり狂気

嗤って砕ける 其の音色


鈴音がひとつ からりと途切れ
満ちて欠けゆく月は乾いて

留まる正気
巡れる狂気

哭いて生まれる 其の音色



 endlos.......



2003.9.18(Thu)

「記憶」


降り立ったその地は寒風吹き抜ける魔島の地。
戻ってきたのだ…そう思うと身震いがした。

ひとつ…ひとつ…
風景を確認して深く息を吸い込む。

凄惨な笑みを浮かべ、ゆっくりと歩き出す。

自らの生まれた地…
この大地のどこかに、求めるものが。

そう信じて疑わなかった、始まりの日。



2003.9.19(Fri)

「記憶 zwei」


途方も無く古い時間
途方も無く遠い時間

嘗て俺に与えられたのは
純粋な「黒」への従属
望まれたのは「自由の渇望」

然し束縛から逃れるには
余りにも漆黒が魅力的過ぎた
囚われ 尽くすことに
何の疑問も抱かなかった

甘く どこまでも甘く
其れはおそらく
主が密かに抱いた想いゆえ。



2003.9.20(Sat)

「記憶 drei」


束縛を識るがゆえに
開放を識るがゆえに
望んだものは従属

委ねて堕ちて…失い。

そして、時は巡る。



2003.9.21(Sun)

「記憶 vier」


変化を望まず
停滞を望まず
そうして生きるが俺だとすれば
この焔は何と傲慢なのだろう

ただ影を追い
ただ幻を求め
そのまま朽ちるが俺だとすれば
この焔は何と無為な存在か


理解はしても動かなかった
呆れるほど怠慢に
何もかも無気力に手放した

求めなければ手に入れなければ
失うことも無いのだと。



2003.9.22(Mon)

「記憶 funf」


今を以ってその想いは果てず
この眸の時は止まる

この身は痛みを忘れた身体
されど
眠りより目覚めるは苦痛を伴う

自らの焔に焼かれ
瞳を腕をその胸を
黒く染め朽ちさせ
その腕を伸ばし
その瞳を凝らし
胸動かさるる事あらば

脆さを増した焔は
簡単に崩れ去る。


その弱さへの居直りを
密かに嫌悪しつつ。



2003.9.23(Tue)

「記憶 sechs」


どこまでも
どこまでも遠く
時を止めて遥か

けれど人は変わる
世界は変わる

いつからか望み
求めて

そして
自らに迷い惑う

焔を持て余し
時には消し去りたいと。



2003.9.24(Wed)

「」


嫌悪の情を
拒絶の意志を

俺は好まない


…けれど。


この憎悪は
この拒絶感は
この悲しみは

一体どうすれば良い。

このまま 堪え
抑え 諦めることしか
出来ないのだろうか。


…愛おしき黒き大地よ。



2003.9.25(Thu)

「堕天」


イブリース

人を識っていた天使

人を作ることに反対した天使

神が己の道を歩むように
彼も己の道を歩いた



2003.9.26(Fri)

「堕天」


無惨にも

もぎ取られた両の翼

嘲笑う神に彼は言った

『翼が無いのなら
 この脚を使いましょう
 翼が無いからと言って
 歩めぬわけではないのですから』

神が己の意志を思うように
彼も己の意志を思った



2003.9.27(Sat)

「喚び声」


余りに強すぎる思いは
知らず その念を抑え
胸の奥封じたまま
眠らせることが在ると云う

想い募れば
人を己を壊すほど
狂おしく求める激情は
焔だけのものでは無いと

呟いて見えぬ月仰ぎ見る

柄でもない。

けれど

手を伸ばしても良いだろうか。



2003.9.28(Sun)

「眠る刹那」


白き風吹き降ろす岸壁に腰を下ろす。
一人遠く望むは、唯憧れた漆黒の闇。
届きそうで届かぬ。空へ目を凝らす。
背に暁光が追いすがる。
光避けて眠る間に黒は遠ざかる。
嗚呼。

苦痛から逃れ静かに眠りたいと思う
だが
痛みを堪えてでも掴めと誰かが叫ぶ

それは貴公か

それとも俺か



2003.9.29(Mon)

「前略」


言霊では紡げぬほどの想いを。

その存在に。

その言葉に。

そのすべてに。




2003.9.30(Tue)

「海の青 空の青」


眸に映すこと叶わず
指先に触れえぬもの

深海の静寂に心馳せ
蒼穹を染める色想う

この身は紅蓮 墨焔
過去へ焦がれし炎


ヒトはほむらになにをおもう。




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