2004年7月
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2004.7.1(Thu)

「ほむら」


ほむら 燃え立つ
空を喰らうように

ゆらぐ陽炎
目映いばかりに
紅蓮 滾る

ゆらめき ゆらめいて
夜に闇に染まる

魅入られて漆黒
変わりゆく刹那
瞳 閃く

蠱毒の甘さと似て
背徳に堕ちる


…草稿…否。
没。



2004.7.2(Fri)

「」


月淡く
紅色に染まる
落陽の影のように

滲む輪郭
夜の紺と融けて

少しだけ冷たい空気を抜け
闇を縫い 彷徨う

今宵は満月
だから

気紛れな俺の行動も
今夜だけは 月の所為。



2004.7.3(Sat)

「夜の虹 闇の雫」


伸ばした指先 揺れて
ゆらめき闇に融ける 夢

夜を覆うごと 広がり
色淡く薄く そして幻

強き意志 空を越え
軌跡は虹為して 探る

包み込むは現
焔は世界を喰らい

墜つる溜息 雫



2004.7.4(Sun)

「」


伸ばした指先で
中空に世界を描く

目を閉じて無限
夢の名残

軌跡にさえ焦がれ
気付いて

いつしか俺は


その先 へ



2004.7.5(Mon)

「」


昔の夢を視た
遥か昔 この両の眼に
景色を映していた頃

戒めて口付けた 黒
艶やかで美しい 闇

彼は俺の世界を統べ
俺は彼の支配に焦がれた


今は 懐かしく
穏やかに振り返れる
それは昔話


昔の夢を視た
告げられなかった言葉は一つ


―…別了。



2004.7.6(Tue)

「龍啼」


その音は遠く
高くか細い

竹を削りて笛と成し
韓紅に色添えて
空翔る龍の響と呼ぶ

その音は長く
鋭く 儚い

この手にその笛は
もう 握られぬけれど


音無く奏でる 虹の音
誰にも届かぬ 龍啼の響



2004.7.7(Wed)

「」


俺は慰める言葉を持たぬ
癒すための言葉を知らぬ

だから

何も言わず傍に佇もう

請われれば詩を 熱を

この黒き炎が
涙雫で掠れても

俺は消えやしないから



2004.7.8(Thu)

「見上げる」


灯の点る窓を見上げ
手帳を片手に 一夜

莫迦めが、と
呟いた言葉は 己へ

書き連ねる言霊
文字にした先から色褪せ

闇に紛れるように
動けぬまま
言葉探せぬまま

己が炎を暫し怨む



2004.7.9(Wed)

「」


漂いて たなびいて
空渡る言霊 ゆらゆら

祈りを一つ 願いを一つ
大事に抱いて


彷徨いて 戸惑いて
灯る闇炎 ゆらゆら

祈りを一つ 願いを一つ
守るように


焔は死送りの儀
ゆえに紅蓮を隠し。



2004.7.10(Thu)

「夜の生き物」


限られた時間
闇夜の世界

彷徨う先で見る
人と 人との繋がり

己が焔を省みる

炎の切っ先から繋がる 糸は
数少なくて

不器用さを自嘲する


執着したくないから
友を作らぬ など

言い訳に過ぎない



2004.7.11(Sun)

「歌」


小さく口ずさむ
いつか聞いた歌

明滅する色彩
脳裏を過ぎる景色

何時だっただろうか
あの歌を聞いたのは

遠い夢 遙かな記憶
朧気な… …否

確かに存在した 過去

揺れる意識の狭間
微かに歌う

それは子守歌



2004.7.12(Mon)

「背には虹霓 手に蒼華
 腕に風龍 胸に黒」


簡単に手放したものだな、と
思う

我がことながら。


手にした華 傍らの風
拒絶にも近い感覚
最早振り返ることもなく
振り切る

抱いた黒は遠く
結ばれた契約は 思い出
虹霓は自ら潰え 眠る
そして目覚めを待つ


俺が世界は存外、狭い

だが 構うものか

ヒトを通して視る世界は
もう沢山だ



2004.7.13(Tue)

「魂」


―器 が無いのだ
それゆえ感じた 違和感

其処には魂しか集えない
それゆえ感じた 疎外感

中身が無い のでは ない
裡しか存在せぬからこそ

違う と

そう 感じたのだろう


その國には形がない。



2004.7.14(Wed)

「紡ぎ歌」


硝子の瓶を傍らに
筆を片手に 杯は横に

流れ出る言葉を音を
思うままに書き付くる

記憶を辿り
 新たに浮かんだ情景
  閃いては また 筆の先へ

迸る想いのままに

言霊を紡ぐ



2004.7.15(Thu)

「紫煙」


手持ち無沙汰に
部屋の整理なぞしていたら
煙草の葉を見つけた

そういえば と思い出す

そんな気にもならぬから
すっかり忘れていたけれど

俺が煙管は何処へ仕舞ったかな

過ぎ去った時の抜殻が
住み着いていたと思ったが

もういっそ
新しいのを買って仕舞おうか

多分
使わないだろうけれど



2004.7.16(Fri)

「黒」


遠いあやかしの残骸
 闇色に燃え上がり
記憶は遙か時を辿る
 幾千の夜越えて

奥底より生じた熱は
朱紅く 紅蓮に盛り
空をも焦がす吐息
消えゆく刹那は漆黒


彷徨う焔の影 揺れて
 滑らかな夜に染まる
覗き込めば闇の淵
 紅い瞳の奥底

魅入られて
緋と交わる螺旋模様
迸る光条
廻る切っ先は漆黒

閃く瞳 艶やかに
誘う黒き焔陣

滾るは融けない炎

甦るまほろばの残骸

 …草稿、のみ
 不調。



2004.7.17(Sat)

「南ハーバス」


再始動 と己に発破かけて
昔 遠く望んだ国の門をくぐる

ふと覚えた既視感
此処を訪れた事があったろうか

この国の方と触れ合った事はあるが


よく思い出せない


…その必要は
 無いのかもしれないが。



2004.7.18(Sun)

「」


静寂 満ちて
切り裂く刃

遠く その先へ
瞬く光 冷たい瞳

空を見上げ慟哭
流れる雨に 打たれ
崩れ落ちる

夢追う鬼はヒトと成る

色無き亡骸に
宿るは 想いだけ



2004.7.19(Mon)

「」


知らぬ姿を知り
見えぬものを見る

己の居ない繋がり
入り込めぬ 縁 絆

身を引き眺めるそれは
少し苦しくて 時折微かに憎い


忌むべき思いだとは
今はもう 思わない

俺らしくないとも
封じ込めるべき想いだとも

貴方のそうした姿が
俺は誇らしく 嬉しいから


一抹の寂しさなど 寂寥など
……



2004.7.20(Tue)

「」


鉄と血と火の匂いがした
風に乗って漂う 戦の香り

見知った顔が
見たことの無い顔して
戦に赴くを 何度見送っただろう

忌み嫌うわけではないが

独り善がりな正義は
己が世界でのみ 演じる舞いは

戦乱には不似合いだと
いつも思っていた


狂え 混沌の申し子たち
俺の邪炎は それを見て哂う



2004.7.21(Wed)

「」


薄赤い 爪月
火の山に掛かる月

炎吹き上げる火口
照らし 照らされ

妖しく 朧気に
夜の空浮かぶ

研ぎ澄まされた刃のように
魅入られて 指先伸ばし

その輪郭を辿る
愛おしげに


掲げたグラスの中
琥珀色の液体
薄紅の唇で 笑う



2004.7.22(Thu)

「」


歌は 歌えない

        ― 嘘をつけ

知らないんだ

        ― 聞いた事が あるぞ

……ぇ

        ― 子守歌だった

…………

        ― 歌って くれないか



2004.7.23(Fri)

「夜空」


夏の月は 赤い

冷えた純白か白銀か
研ぎ澄まされた刃のような
澄んだ月が 好きなのに

浮かぶ月は錆びた色
一時の涼を求めても叶わない

ヒトでも殺せそうな
殺して昇ってきたような

今宵も地上を見下ろす
 紅い月

血肉を喰らいて暈を増し
満ちた月は 南天へ昇りて

清められ

…また罪を繰り返す



2004.7.24(Sat)

「始まりの国」


遥か昔 大陸を支配した国
またかつて 支配しかけた国

崩御により力を増したのは
皮肉なことに 魔島で

彼の国から逃れ 或いは
愛想を尽かして出国したものたちが

魔島を変えることになったのも
また 皮肉な巡り合わせ


ノルディック
人に翻弄される国



2004.7.25(Sun)

「」


思い出話は皆
魔島に由来していた

気付いて小さく嗤う
そうあるのが当然なのだが

最早故郷とは思わぬけれど

奥底に根付いた感覚は
微かな不快感を伴って

じくり、と

何処かを蝕んでゆく

それは直に朽ち 崩れて
瘡蓋のように

過去の癒える日を教えるのだろう



2004.7.26(Mon)

「うつせみ」


華を捨て 粋を捨て
彩さえも捨てて 貴方

そうして過ごすを選ぶのだな

俺が贈った虹の名も
二度と欲されることはないのだな

そうして貴方 己を贄に
次は一体何を捨てる気だ?


…いや

もう 捨てるものなど
無いのかもしれないね

がらんどうなその身体に
三味の音と歌は
 とてもよく響くことだろう


貴方の貌が見えぬ限り
貴方が貌を見せぬ限り
俺は屹度 貴方を密かに罵倒し続ける



2004.7.27(Tue)

「Rückblende」


戒められた腕の痺れは
与えられる感覚に熔け
逸らしたはずの視線は
他愛も無く捉えられる

耳元で低く笑う響-こえ-
囁かれた凍て付く睦言

抉じ開けられる意思に
捩じ込まれる 感覚
心閉ざすも叶わぬまま
意味さえ知らず

求めた言葉は...



2004.7.28(Wed)

「」


紫檀色の書棚に
一頁を追加して

ぱたりと本を閉じ
また筆を取り上げる

 おそらくはお互い
 見えぬ何かを感じて

満月の近い夜
風は奇妙なほど涼やか

空見上げ立ち上がり
グラスに酒を注ぐ

 触れ得ぬ過去に 焦がれ
 それ以上に未来へ焦がれ

ぼんやりと筆を進めつ
口に含んだそれは

微かに甘い 味がした



2004.7.29(Thu)

「」


金色を抉り抜いた虚ろな眼窩は
徒に恐怖を呼び覚ますだけと知り
覆い隠すようになって大分経つ

不自然な空間を宿した片眼
普段は気に留めることもないが
ふとした瞬間に微かな記憶が悖る

向けられた嫌悪と恐怖
亡霊が好いた金色は
醜く引き攣れた空洞

後悔はしていない
綺麗なものでもない
気にならないはずだった


目の前には砕けた鏡



2004.7.30(Fri)

「」


どうかしていた、と思う
時折そういう夜があるのだろう

そう 無理矢理自分を納得させ
色彩を失くしゆく世界から
眠る闇へ意識を委ねる

未だ旅慣れぬ身体は
思いの他疲労に正直で

おそらくは 昨夜のそれも


思い出して笑う
らしくもない、と



2004.7.31(Sat)

「十五夜」


流れ行く雲に夢を乗せ
煌々と輝く月にまほろば

夢と幻の違いを定義出来る者は
この世にどれだけいるのだろう


杯傾けて ゆらゆらと
思いを馳せる 他愛もない事柄

ぽつり ぽつりと
本音を交えて語る



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