2004年9月
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2004.9.1(Wed)

「」


面白そうな話を聞いた
国が丸ごと廓になった とか

誰の仕業かなど
考える迄もないが

どこか空々しく思うのは何故だろう

その目 その声
枠を隔てて見 聞こえるのは


…ああ
俺が変わったからか

貴方 きっと もう
前のように話し掛けてはくれないだろうね

解っているさ
そうさせたのは俺なのだと



2004.9.2(Thu)

「天と星」


近付けば萎れ
触れれば枯れ
手にした途端に燃え上がる

一時はこの身を恨んだものだ
触れようと躍起になって
挙句 別のものを壊したり

そんな俺を 彼は笑って
黒い硝子の天球儀を呉れた

闇色の奥深く封じられ
きらめく星空に

届かぬから触れえぬから
綺麗なものもあると 知った



2004.9.3(Fri)

「」


幾多の麗しき言の葉と
紡がれる小夜曲(セレナーデ)

夜の詩人と呼ばれていた

『ひとは 二度死を迎えるのですよ』

夜闇に遠く 低く啼く
小夜啼鳥の声のごと

その声は優しく響いた

『一度目は 存在するために
 二度目は 生きるために』

竪琴を携え放浪する
黒銀の髪をした詩人(スカルド)

『貴方は今宵 死に
 また産まれるのです』

深く優しく 甘い瞳
緩やかに笑って

『亡霊の名など
 捨てておしまいなさい』

俺はその日 名前を貰った



2004.9.4(Sat)

「」


傾けた杯に見る 昼の夢
遠ざかる日々は 淡く懐かしく

笑って手を伸ばす
身体傾けて

添う熱の儚さに優しさに
覚えるのは 不安よりも

生きている 存在

指上げて輪郭辿り
確かめる

ひとつひとつ
路をなぞるように
やり直すように



2004.9.5(Sun)

「」


時折酷く 不安になる
俺が歩みを止めたなら と

そんな事を考える己を嘲笑し
また一歩 前へ

為すべき事を為してから
言いたい事を云えば良い

助けなど待ってはならない

決して。



2004.9.6(Mon)

「」


夜に誘われて彷徨う幽鬼のように
昼に戯れて舞い踊る胡蝶のように

くるりくるりと
移り変わる姿と貌 そして色

景色は巡り そして日暮れ

墨雲に朧がかる月
見上げて緋の吐息

身体添わせて高く手を伸べて
古の詞 囁く


…聞こえるかね

闇も亦た 唄を歌う



2004.9.7(Tue)

「白夜」


前へ進む事を選んだ
擦れ違い続けて留まるよりも
路を見据え歩むことを選んだ

いつまでも沈まぬ太陽
決して欠ける事のない月

それは確かに
美しい光景であるかもしれないが


Diana=Dia=Dias
 半身の月神たちは
その身一つにしたとき
 世界を終わらせる

終わるのも道理 か


…前へ

朽ちゆく時も
見えぬ未来も

この手に掴み取って
俺が世界にしてみせよう


その可能性を見せてくれたは

他でもない 朋友よ
貴公だ



2004.9.8(Wed)

「」


相見えるは 束の間の夢
鏡の向こう側 薄硝子一枚隔てて
知らぬ顔をした 俺が笑う

酷く空虚に

あれはどの俺だろう
束縛の頃か 従属の頃か
悲愴か 虚空か それとも孤独か
或いは

或いは 今と接点を違えた
もう一つの未来の姿


夢より目覚めよう
音は現世でしか聞こえない



2004.9.9(Thu)

「暗視」


夢 を見た

呼吸することも叶わず
締上げられる意識

それでも

手を伸ばし相手に縋った
最期まで離すまい と

色を失い景色を失い
視界のすべてが黒に閉ざされ

そしてそのまま 戻ることはなく
暗きに一人置かれて


…目覚めて
景色が見えることに安堵した

同時に思う

まだ俺は 恐れているのだと



2004.9.10(Fri)

「薫る星」


月の香 というのは時折聞くが
星の香を感じた事はあるかね

闇が詩を歌うように
月が沈黙の香を焚くように

星々も薫るのだ

あの闇空の高きから
この地の果てしまでも

薄く 淡く ほのかに落ち来る
香りを感じた事があるかね


…ああ
この星も薫る

混沌に満ちて皓々と輝く
気高き獣のように
麗しき骸のように

それはあまりにも蠱惑的で。



2004.9.11(Sat)

「秋」


そう言えば
そろそろ そんな季節だな

空見上げ
冷風を感じ

光零れ落ちる銀盃を見て

夜空に浮かび輝く盃に
白金の酒が満ちたら

月見宴でも開こうか


来月はハロウィンもある
楽しくなりそうだ

人さえ居れば、ね。



2004.9.12(Sun)

「月の無い夜」


星は輝く
深き藍に浮かぶ天球儀へ
幾多 彩り与え

生命の如く刻む
時間無き悠久

追憶の如く過ぎる
影無き影

闇夜近し



2004.9.13(Mon)

「深緑」


萌えるような 若葉の色を
光に映えてきらめく 新緑を

燃え立つ紅葉のくれないを
鮮やかに舞い散る銀杏の色を

俺は決して 見る事はない


俺が見るはすべて
闇に彩られて 尚輝く

深い緑の色
くすんだ黄土色


俺は陽光を好まないが
光溢れる元で見える景色は

さぞかし綺麗なのだろうなと
思う



2004.9.14(Tue)

「空蝉」


責める事は出来ぬと思う

同じ路を歩む可能性が無かったとは
言い切れぬから

だが

だが かつての虹よ

貴公が身体に魂はあるだろうか

俺は…
恐らく貴方を赦せていないのだろう


納得も理解もしていると思う

それでも どこかで

俺は貴方に失望したのだろう


触れれば消える疑惑だろうが
その背に触れるを俺は躊躇う


…こんな処で呟いたところで
貴方に届きはしないのだが、ね…



2004.9.15(Wed)

「あやかしの焔」


俺の影で俺が哂う
時折大地に映る 緋色の影

ゆらめく紅は
俺が焔である証のようで

それが悪いとは思わないが


きっと この身は
知る人にとっては おそらく

不安定で頼りなげなもので
場合によっては不安にさせ
怯えさせるものなのだろう


我が身は触れ得るまほろば

絶えることのない 幻



2004.9.16(Thu)

「samusara」


何度追い抜かれても
追い越され置いて行かれても

ふとした刹那に追い付いて
追い抜いて

貴方に向かって手を伸べて

俺は笑おう

幾度でも



2004.9.17(Fri)

「花の名」


眺めた花の名を問う
曰く 彼岸花と

月の見えない空へ向かって
仄かに火花を散らせるような

それは何だか誰かに似ていて

思わず漏らした小さな笑いを
聞きとがめられて


なんでもない、と 頭を振る


…本当に
何でもないのだよ

ただ

あまりにも


絵に描いたような風景なので。



2004.9.20(Mon)

「水中花」


不思議な夢を見た


凝っと空を見上げていた

見上げる空は 水で出来ていて

薄い桃色をした花が一輪

ゆらり ゆらりと漂う

腕を上げて水の中

触れようと指を伸ばすけれど

触れる刹那に 泡沫に変わる


それでも 俺は

その所作を繰り返す

飽くことなく 幾度も

その他の動作を忘れたかのように



2004.9.21(Tue)

「do not mind」


主に捨てられ往く場も無くて
路地に彷徨うサーキィさながら
飢えた眼をして挑みかかる

だがその姿
俺に違いはない


声を出せない俺の代わりに
愛しいひとを呼んでくれ

それだけで良い


心配などしなくていい

直ぐに立ち直る



2004.9.22(Wed)

「」


よく叩かれる日だ、と
ぼんやり思う

俺は幸せだな

月の色した死神は美人だし
かつての虹の言の葉は
今でも俺を支えてくれる

何より 己が大切に思うひとに
心に掛けて貰えるのが


…うむ
大丈夫だよ

心配ばかりかけるわけにも行かぬ

そう云って 笑う

終わったわけじゃない
幾度だって始めることが出来る


…ありがとう



2004.9.23(Thu)

「十日月」


煙管を片手に月を見上げた

…俺は幸せだと
しみじみ思う

思われて
想われて

それに。


例え来訪の理由が俺でなくても

…また 声を聞けるとは
思っていなかったから


今宵の安息を何に感謝しよう



2004.9.24(Fri)

「幻視」


幻なのは解っていた
その黒髪も濡れた瞳も
身に纏う薫香さえも

出会った当初のそのままで

懐かしさと重なる面影
今を去りし 手の届かぬひと


…何故 その姿を?

最早俺は 貴方にとって
何の益も幸ももたらさぬ筈

それなのに。


なんて優しい夢
等しく 残酷な 夢。



2004.9.25(Sat)

「」


暗示をかけるがごと
何度も言い聞かせる

大丈夫
俺は 大丈夫だと


だが…それも今際だろうか

張り詰めた糸が
 弾けば容易く切れるように

こうして 己を誤魔化し乍ら
 生き続けるのは。


紅蓮に染まる影を見る

この色は

俺が己を憎むがゆえ
 己を否定するがゆえ

闇より逃げ場を失いし
 俺が炎の色



2004.9.26(Sun)

「雨月」


一雨去って 濡れた月
満ちる夜近く 白金に
よく似た色した葡萄酒を
一人掲げた 杯に満たす

古き呪法

なれど 俺には
すべてを籠めて落とす血も
誰かを想って 流す涙も
その一滴も存在しない


…なぁ 貴公
そこから空は見えるだろうか

刃の月ではなく
酒満たす盃の月


共に眺めたかった、と



2004.9.27(Mon)

「月砂」


掲げた杯 満たす酒
酔う気にもなれず 傍へ置く

もう少し
何でもないよと
そう云って
笑えるようになる迄


壊れてなんか居やしない
悲しみに沈んでる心算もない

ただ

ただ少し 旅の疲れが出ただけだ


…貴公が傍に居られぬから



2004.9.28(Tue)

「」


砂漠の南端に一人
訪なうものもなく

一頻り 月を眺め
砂の器に身を埋め

握り締めた掌の隙間から
溢れ零れ落ちる 銀の砂

さらさらと

ゆらりと立ち上がり
龍笛携えて 街へ

生命の音を奏でよう
琴弦の響と笛が響

黒と 白と 交わりて
彼方へ


笑う貴方を目に留めて
紡ぐ音に願う

俺が愛しき 友

色無き色さえ
 貴方が前では彩に成る



2004.9.29(Wed)

「酔う月」


言い訳するのは嫌なんだ

とはいえ 少し己を誤魔化さねば
言いたい事も云えぬ気がするし

触れてくれた貴公の声は
どこか痛々しげで

どうしたら良いか解らぬまま


只 傍らに並んで
静かに月を見上げて居た



2004.9.30(Thu)

「」


残されるものの悼み
残し逝くものの哀しみ

過ぎゆく過去ゆえの懼れ
巡り来る未来ゆえの畏れ

慕うがゆえに
慕われるがゆえに

請い 請われるがゆえに

触れ難いもの


その先に 貴公
佇んで居る



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