2004年10月
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2004.10.1(Fri)

「刹那」


小さく息吐いて
見上げた空は夜の色

目を閉じ輪郭を辿り
零れた吐息は墨色

指先で辿る 儚げで
氷のごと冷たく 薄い殻

掌に熱持たせて
ゆるりと包む すべてを

この身より心の奥深く迄

喰らうように
愛おしむように

貪るように
縋るように


焔はゆらめいて燃ゆる



2004.10.2(Sat)

「」


風に流れる 仄かな香
柔らかな けれど
それは確かな存在感をもって

空の元漂う
金木犀 秋の馨


砂に囲まれるこの地にも
それはゆるやかに


目を閉じて息を吐き出し
夜空を見上げる


ああ…
好い心地だ



2004.10.3(Sun)

「」


吹き抜ける乾いた風に 砂の色
夜に灯す炎が熱 幻橙の色

身体を寄せて 心絡めて
さて 何を話そうか、と

見上げた空に光の爪痕
光条 流れて消え 盃に散る

問われることなく 語る夢
恐懼と羨望と そして憧憬

どうしても掴めぬヒトに
甘く笑う

…愉快だね。
不安に駆られても尚
俺はどこかで安堵を覚える。


華落つる 蒼穹の色 青白く
片手盃 揺れる風花…



2004.10.4(Mon)

「」


乾いた砂礫に降りしきる
冷たい 秋の雨

白砂を灰色に変え
夜空を鈍い黒に塗り染めて

遠く 吐き出した息
俺のそれは白く濁ることはないが

身体に触れる雨雫
吐息の音させて 白煙と昇り


またひとつ
思い出に変わる



2004.10.5(Tue)

「」


砂に雨満ちて
雨に杯交わす
杯に酒満たせば
空に掛かる 月 朧ろ

風に香
香に彩
彩りに華添えて
巡る想いと舞う 扇の軌跡

夜に琴弦の調べ
焔の色はまほろば
共語るその先に夢

触れ合う肌に現 刻む熱



2004.10.6(Wed)

「在処」


名を知らぬ感情
俺の知らぬ想い

何も出来ぬ己を憎んで
そして目を閉じる

その刹那
己が内に空洞を見た

虚ろな眼窩に似た
底ひなき 混沌の色を

其処に刻まれた
微かな傷の色を


名のみ知る感情
いつか焦がれた想い

何も云えず 御免な
目を開けて ゆるり笑む

黒き闇の焔
いつか 月の明るい夜に

空の色を映してみせようか
星出る 空の色を

夜の海のそれと似た
優しい黒を



2004.10.7(Thu)

「」


夜と月と風と馨
炎の赤と黒き闇
心と言葉と魂と
夢と現と幻の

織りなす詩は幾百千

音と光と星と空
巡る縁に因果律
熱と命とその縁
天と地と冥紡ぎ出す

軌跡の糸は幾千万


絡みて彩る 混沌の世



2004.10.8(Fri)

「」


きり、と
悼む胸の奥 左肩の紋様

後悔はしていないが

もしも あの時に と
振り返った時の輪の先


狂い咲く桜 幻影


手を伸ばした指先に
触れる刹那で消えた
薄紅色の花弁


貴方は俺と似ているのだろうか
俺が貴方と似ているのだろうか

擦れ違った縁の糸は
留まることなく 絡まり 滑り


それでも

離れることは無いのだ
その糸が途切れぬ限りは



2004.10.9(Sat)

「」


眠る横顔に そっと触れて
聞こえぬ呟きを囁いて

喉の奥と胸の奥
締め付けられるような切なさに

深く静かに 吐息を一つ


伝えること
伝えられないこと

様々な色合いの 過去 未来


理解者でありたい、などと
烏滸がましい事は思わない

けれど

…何故だろう

この不安は杞憂に終わるのだろうか



2004.10.10(Sun)

「月の神話」


それは遠い 街の話
月に恋した娘と
月に住む少年の昔話

月を見てはいけないよ
あの娘のように攫われてしまう

そう言って老婆は俯いた

月に魅入り 魅入られた者は
この世のものではなくなるのだと


満月の夜 静かな街

一人見上げた月は
どこか 寂しそうだった


窓辺で月を見上げて語る
そんな夜の 他愛もない話



2004.10.11(Mon)

「」


空に浮く 白金の天球儀
溢れ 零れ落ちた闇は
一夜ごとに深さを増し

やがて夜を支配する

砕けた光の名残に
散りばめられる星の群れ


見上げて

言の葉に遊び 言霊に酔う
杯を交わして酒に浸る

言い訳したって構わないさ

命が皆 強いものとは限らない



2004.10.12(Tue)

「」


腕の内なる存在を
心に添わせる言霊を

包み抱き締めて また一夜
重ね連ねて 夜が明ける

モノクロォムに霞む視界は
いつしか彩られることを望み

久しく
己以外の熱を知らなかった指先は
気付けば傍らの熱を追い


変われはしない

変われはしないが 俺は
移ろい変わる事を望み

何処へ続くか解らぬ路を
躊躇いながらも 歩いている



2004.10.13(Wed)

「sivira」


黒銀の髪の詩人を思い出した

異国の武人を傍らに
婉然と笑い 琴を奏で

詩人 即ち自由人だと
朗らかにそう詠った

その時俺は
羨ましいとは思わなかったが

今は 少し
白銀の絹纏った詩人に焦がれる

その瞳はどこまでも愉しげで
そしてその傍らの武人もやはり
すべてを愉しんでいた


かくありたいと願った

詩人の名は俺が名と等しい



2004.10.14(Thu)

「CageSong」


泡沫のように
灯っては消える光

上下し ゆらめき
閉ざされた空間を
ゆるゆると

炎の色した螢
或いは緋色の不知火

掌に乗りそうなほど小さな籠を
夜空に翳して

吐息吹きかける

幻灯は廻る



2004.10.15(Fri)

「」


夢幻に揺らめく 夜の陽炎
影の奥滾り 追憶を辿る

闇の底 融けない炎
その切先で焦がす
心 遥か遠く

濁る紅蓮を宿す


無限の刻に眠る 緋色の瞳
黒の夢誘い 描く縁の妙

時の彼方 消えない面影
揺らめく指先で祓う
記憶 古の昔

焔は己に焦がれ
焔は墨色に染まる


 …草稿



2004.10.16(Sat)

「」


それは一つの御伽噺

恋を知らねば愛も知らない
流れ流れて漂うばかり

やがて焦がれたその色に
魅せられ 囚われ 抱かれて

名も無き夢は言葉を知った


心を持たず感情を知らず
悲愴に満ちて終焉を探し

やがて出会ったその色に
触れて 震えて 包まれて

名も無き夢は詩を知った…


今夜はここまでにしようか



2004.10.17(Sun)

「」


山の端にかかる月を眺め
指先伸ばし 手を伸ばした

その先へ灯す緋色
夜の闇に映えて 人の血のそれと似る


俺が焔 俺が影の色
望むは闇の色


掌を遠い夜空へ翳し
灯した緋色を風へ流す

映せよ我が焔
その身に触れた幾千の夜 幾千の闇を


星の瞬き 火の粉と散らし
青き月夜の色と燃え盛れ



2004.10.18(Mon)

「」


秋の空を見上げる
大分 冷えるようになったな

このまま北上してゆけば
冬の頃には 暖かい国へ着くだろう

そして春が過ぎた頃
また南下して


渡り鳥のようだと笑う

行く先の国々で翼休めつつ
流離う鳥に未だ 故郷はない



2004.10.19(Tue)

「涙雨」


しとどに降り続く雨は
容赦なく炎の肌を貫いて

触れる空気を冷たい と
身体の芯でそう感じる


広げた大きな傘の下
腰を下ろして傍らを見やる

色薄れる己の手の先
眠るひとに 小さく笑って

また空を 大地を見る


この程度じゃ俺は消えない
心配されたいわけでもない

感情を持て余したまま
雨雫の混じった杯を干す

…らしくない



2004.10.20(Wed)

「」


どうかしていた、と思う
いや…
今でも己が解らない

解らぬまま 必死で前を向いて
解らぬまま その先の未来へ進む


昔――には 戻りたくない


風趣も詩も 楽も舞も
共有出来るものはすべて 共に

俺はこれで結構 不器用だから
巧く教えられないかもしれないが


どうか手の届く場所に



2004.10.21(Thu)

「」


ずっと… 忘れて居たのだ

掠めた心の端に よく似た過去の面影
言葉と身体とを重ね 思い出して

…足りない、と
そう 思ってしまった

理解の出来ない言葉よりも
感じられる支配に溺れた


忘れさせてくれ、とは言わない
忘れることも出来ないだろうが

……振り切らなければ。



2004.10.22(Fri)

「Phenix」


栓を抜いた刹那
内より紅蓮が溢れた

燃え盛る炎の色
鮮やかな赤

そのままグラスへ注げば
紅は不死鳥の姿を為し

ひらひらと舞う幻火
玻璃の杯で詠う 朱紅き歌


グラスの縁に口付けて
紅に盛るそれを飲み干した

甘く激しい 生命の酒


…良いセンスしてるね お嬢さん。



2004.10.23(Sat)

「」



その酔いを醒ますのが惜しくて

傾けたグラスの内で盛る
炎の熱を逃がすのが惜しくて

蝋燭代わりに机の上へ飾った


揺らめく緋色に魅せられる
俺が炎とは違う 鮮やかな

黒を望まねば俺も
この色を灯したのかもしれない

指先を見つめて
グラスの不死鳥を見つめて


それもまた
縁の紡ぐ巡り合わせ



2004.10.24(Sun)

「その先にあるもの」


 久遠に巡る環の中で
 出会ったことが必然ならば
 刹那の積み重ねで生じる
 その先の奇跡を信じよう


…未だ 信じている
信頼 信用という名の諦めではなく

例えその行為を否定されても
ただひたすらに

そうすることでしか
届かない気がするから


その先の奇跡を



2004.10.25(Mon)

「」


記念品だという装備品を断った
関わりを遺したくなかった とは
さすがに言い出せず
部屋の狭さを言い訳にはしたが

俺は元来
武器を取って戦うのが苦手なんだ

傍らに携えるものは刃でなく
詩と言霊であれば良い
俺が身を護るものは鋼でなく
己が意思さえあれば良い

行き過ぎた跡に遺すのは
刃の与えた傷痕でなく
言霊だけがあれば良い

俺が存在など 残らなくていい



2004.10.26(Tue)

「」


一日 雨

深海の色した華は闇に散りゆく
色失き虹には声をかけたろうか
あの方はまた 悲しむだろうに

暮れゆく街並

友と呼んだ存在が消えゆくのに
何の痛みも覚えぬ己自身を嘲う
心配するのは人のことばかりで

雨は止まず降り続ける

去るのなら 未練はすべて絶て
絶たぬがゆえに傷付く者もいる


これ以上あの方を悲しませるな



2004.10.27(Wed)

「」


落ち込んでいないと言う
その横顔は悲痛に満ちて
己の無力さを思い知る

貴公の 諦めにも似たその苦痛を
取り除いてやれるのは もう
どこにも居ないのだな

俺では遠く力及ばぬ
何も出来なくて
ただ 陽炎のようにそこにあった


朧気な俺の身体を通り越し
その先の誰かを探す瞳
刹那虚ろに笑う

面影を重ねても構わない
今は まだ


今宵の俺は幻
そのまま闇に融けて消えよう

言霊も闇夜の夢
記憶に留め置くも 流して消すも

貴公の好きにするがいい



2004.10.28(Thu)

「幽玄」


眠るその傍らに腰を下ろして
寝台に背預けて久々に書を読む

燈の火と色
傍らに紅茶

静かな空間に安らいで
いつしか眠る



2004.10.29(Fri)

「」


闇色の空に降る
朧にうつろう風花 ふわり

降リ積モル枯葉 幾千


黙して佇む老木
木枯らしに吹かれて ゆらり

繋ガレタ想イニ 揺レテ


空より舞い来る白
月の光映して きらり

ソレハ泡沫ノ記憶



2004.10.30(Sat)

「雨の月」


雫満ち足りて零れる
空高く雲の彼方より
ひとつ ひとつ

霧霞揺れて夜の虹
静寂抱いて闇間に漂う
ゆらり 揺れて


雨の月 月ノ雫
光溢れて流れた
涙のように 空を伝う

願った景色は
星の追憶



2004.10.31(Sun)

「月狂」


見上げた空に欠けた月
雨上がりの夜 闇に掛かる霞

惹かれるのは月夜の光

遥か遠くで輝く月に
手の届かぬ己を哂うがごと

届かぬものへ思い焦がれる
己を戒めるがごと

己の手の内にあるものを
思い出すように

空を見る
俺はここに在る



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