2004年11月
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2004.11.1(Mon)

「竜啼」


杞憂に終われば と
願いつつ 笛を唇に当てた

高く響く笛の音
夜を越えて 時を越えて

音霊は焔となりて
白きくちなわへ届け

眠りが安らかであるように
夢に幻に現に 三界のすべてに

最早嘆くこともないように

龍啼焔の遠く啼く



2004.11.2(Tue)

「」


杞憂であったと笑うには
まだ早いけれど

それでも一応の安堵を得て
再び奏でた笛の音 遠く

空蝉よ 空蝉
色鮮やかな季節に響かせる
その澄んだ音さえ失った空蝉

からからと鳴るその身に今
何をか宿して現を見ん?

せめて奏でる龍啼の
音を宿してくちなわと成れ

その命火 途絶えれば
紅の華と散らしてやろうほどに



2004.11.3(Wed)

「黄泉の風」


闇よりも尚深い
混沌とも黒ともつかぬ
果てしなき虚空の果て

漂い来る黄泉の匂い
噎せ返るほどに甘く
狂おしいほどに切ない

腕(かいな)伸ばして抱く
黒き炎の身に嗤いかける
黄泉の風


我が身の自由を望んだあなたが
何故 今になって?

俺が選択を嘲笑うか
黒き亡霊よ

生暖かい風に誘われようと
俺は振り返る気は無い



2004.11.4(Thu)

「下弦」


夕凪の水面に映る
白き街の光

揺れて彩りを弾き
静寂に映える華 幾千


小夜更けた空に掛かる
太陽の忘れ物

半身を夜に置いて
盛る金色は明日へ


急くでもなく
焦るでもなく

ゆらり ゆらりと
漂う 闇の浮舟



2004.11.5(Fri)

「」


漂う馨に眠れぬまま
溜息ひとつ ひとりごちて

噎せるほどの薄紫に浸る
月は浮舟 淡い光の夜

片手に花一輪
空に翳して魅入る

添えられた花言葉に
らしくないと思いつつ


…眠れやしない。



2004.11.7(Sun)

「」


書きかけて筆を置く
言葉が出てこない と

珍しいことじゃない
暫くすればいつも通り


そんな気分じゃない
そう言うことは容易いが


気がかりなこと 一つ
詩人ならそれさえ詩にしようが

俺は詩人じゃない


夜が更ける
月は語らない



2004.11.8(Mon)

「夜に嗤う月」


欠けた月は夜の唇
笑みの形して 嗤う

冷たい闇の魔女
濃紺の衣纏い 時を止め

細腕差し延べて艶やかに

『こなたへ来たれ 疾く
 過去は汝を包み込む』

かつて俺を愛おしんだ
黒き亡霊の声をして


嗤えよ 嘲笑え
後悔の具現に責められたとて

もう戻る道はないのだ




戻る気など 無いのだよ



2004.11.9(Tue)

「」


刹那 思い出して
会いたい、と

そう 思ってしまった

きっと叶わぬ望み

彼なら と
…そんなことは

俺には願う資格もなくて


……畜生



2004.11.11(Thu)

「」


新月の夜が近付く
初めて見た空の色
夜毎大きくなる空の傷痕

刹那 虚ろに中空を見て
瞬きして現へ立ち戻る


窓際で一人爪弾く月琴の音
欠けて消えゆく月の代わりに

夜満たす銀波となれ



2004.11.12(Fri)

「ノスタルジア」


久方ぶりに
自分の作った酒に口をつけた

望郷の名を冠したそれは
最早故郷の無いこの身にさえ
深く沁み入るようで


何とも知れずに切なくさせる
甘味と 辛さが

無性に苛立たしくなって
硝子杯を思わず 振り上げた


―刹那

甦った記憶に力が抜ける

気がつけば足下に散る
砕けた硝子の粒


…どうか してる



2004.11.15(Mon)

「」


緩く目を開けて
空に散らばる星を見る

気付けばまた 夜
いい加減に起きなければ


そうして奏でる
かそけき月琴の音

夜に吸い込まれ消えてゆく
微かな琴弦の音


何を想うでもなく
何を願うでもなく

ただ無心に
杯を傍らに



2004.11.16(Tue)

「刃月」


薄紅に彩られる
月の刃浮かぶ 夜闇

断ち切られるのは過去の縁か
それとも未来へ繋がる糸か

解らぬままに唯なぞる
明暗を分かつ細い輪郭


分かたれた色
月の刃宿す 夜闇

繋ぎ止めるは人の心か
それともかつての亡霊か

解らぬままに唯願う
描く未来に君よ在れ



2004.11.17(Wed)

「」


夜のはじめ
身体に感じる重み

命と身体 意識と意志
そのどれよりも温かい
存在は此処に

刹那 思い出しかけた
記憶を振り切って
見上げた空に浮かぶ
月を眺めて


欠けた刃の朧月
 透かして見ゆる 我が紅



2004.11.18(Thu)

「」


雨の下微睡む
気分は沈んだまま
聞こえぬ音に溜息一つ

濡れた弦に指先掠れ
音爆ぜて途絶える夜

紡ぐ声もなく
紡ぐ言葉もなく

確かめるように ただ
存在に触れて居る



2004.11.19(Fri)

「雨の檻歌」


夜空に落ちる天雫
闇さえ滴り彩を為し
霧立ち上り朱に染まる

闇夜に一つ涙月
滲んで双つ朧月
重なるまほろば 夢のごと

伸ばした指先 雨掠め
震える声に現知る
焦がれて止まぬは君が面

月光の影 緋の輪郭
照らして掛かる夜の虹
捉えて綴る 雨の檻歌



2004.11.20(Sat)

「」


俺が目には個人しか映らないのだよ
公の顔した友人など知らぬ
それが例え かつての想い人でも

闇薔薇片手に一思案
場所の遠さもあるけれど
結局 未だ行かぬと決めて

惹かれるのは黒の名ではなく本質
俺が惑わされるには足りぬ
作られた黒に魅力は感じない

小さく笑って緋に染めた
夜の色した黒き花
御免な 君を好いてやれなくて


黒は孤高であってこそ美しい



2004.11.21(Sun)

「」


夕刻 見上げた月は
叢雲に閉ざされて
湿った風に雨を知る

目を閉ざして屋根の下
過ぎるを待つしかなくて
だが それは今は都合が良い

終わり止まぬ思索の果て
近しくも違えた
いずれかの道の果て

答えは見つからぬまま
また夜が更ける


酒の代わりに香を焚いた
思惑に浸るのも時には心地好い



2004.11.23(Tue)

「夜の訪れ」


見上げた空は灰色
街並みは白と黒
翳した掌の向こう
夜の色に塗り替えられる 風景

すべてのモノに色彩が悖り
空は 石は
それぞれが己の光で輝きはじめる

俺の身体にも色が戻り
熱が戻り 感覚が戻る
逢魔が時の刹那


…この時間は結構好きだ



2004.11.24(Wed)

「不知火」


朧に霞む星を眺めて
冷えた身体の縁辿る
目覚めて漆黒 眠れば紅
映らぬ瞳の奥の闇

朧に霞む月を眺めて
震える腕を抑え込む
目覚めて紅 眠れば漆黒
開いた瞳に宿す色

言霊彷徨い射干玉の
月無き夜を黒と染め
闇に染まりて炎は泣く
煙色した雫滾れば

其を不知火と人は呼ぶ



2004.11.26(Fri)

「LostColors」


記憶にあるのは夜の色
黒と白と 紺と紅
灯火の橙 星の青

明かりの下で見た色硝子は
煌めいて鮮やかに

忘れられぬ色がある
天蓋の隙間より垣間見た真昼の雪
その先に広がった空色と
深い緑を宿した木々を映し

雪の純白に輝きを増して煌めいた
美しい碧翠の湖


俺には決して宿らぬ色
記憶の内にしか残らぬ色

その色を最後に
真昼の景色から色彩が失せた

失わせたは己の紅蓮

そして
紛うことなき
愛しき人の色彩


いずれ やがて
夜の景色から色が失せることがあれば

貴方を伴って現から失せようか
その色彩 すべて
紅蓮と墨色に染めて――



2004.11.27(Sat)

「色巡る」


今宵 馨増した
月の光浴びて
この手差し伸べる
夜の彼方へ

闇の先へ出ずる紅
炎のそれより赤く
血のそれよりも黒く
滴る色彩を喰らう

愛おしきはその姿
焦がれて恋うて手に入れて
この手の内で愛おしむ
包み込むがごとく



2004.11.28(Sun)

「」


輪廻と踊り
転生に舞う
其は存在するもののさだめ
生命無きこの身でさえも

世界の絶対質量は不変だと
かつて出会った誰かは云った
幸も不幸も 記憶も想いも
生まれた分だけどこかで消える

ならば
絶え間なく燃ゆるこの身は
常に何処かより熱を奪い
そして俺は存在する

尽きせぬ意思は
一体
何を犠牲にして存在するのだろう

この俺の焔は



2004.11.29(Mon)

「」


透き通った瓶に詰められた
紅蓮色した生命の化身
透き通った白より生まれ出る

グラスに移して 暫し
夜闇にたゆたう その身を眺め
指先翳して緋色に見惚れた


夜更けゆえに
火を灯すことは憚られて
代わりに揺れる 紅の化身

掲げて干した赤
光失しかけたこの瞳に
願わくば今一度


目を閉じて緩く息を吐く
目を開けて空を仰ぎ

己が呟きかけた言葉に
微かに笑った


―助けてくれ などと

…その対象さえ 判らぬくせに。



2004.11.30(Tue)

「」


一人杯を傾ける
理由もなく冷えた身体に
逆巻く炎を宿して

命の水とは良く言ったものだと
虚空に掲げた杯を干して思う

揺らめく意識に
狂い咲く 桜の幻を見た


今更 俺は何を思うというのだろう
所詮

…所詮 契約種ゆえの名残
俺である必要は おそらく
どこにもなかったのだから



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