2005年2月
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2005.2.1(Tue)

「」


『言葉を一つください
 愛している その一言を
 これが最後の別れなら 私に甘い嘘を
 その偽りで自分を騙して
 私は生きて行けるのです』

『ならばくれてやろう
 この世で最高の偽りを』


遠い昔に弾き語られた詩
続く言葉は何だと問うた俺に
柔和に笑って詩人は告げた

「それはあなたが望むこと」



2005.2.2(Wed)

「」


切れた弦はそのまま
途絶えた音は鳴らず

伸ばしかけた腕はそれに気付いて
はたりと 身体の傍らへ落ち

代わりに詩をと
そう思えども

歌紡ぐを止めた喉はすぐには
その音色を思い出せない

甦れ音霊
甦れ言霊

求めるものは目の前にある



2005.2.3(Thu)

「」


口元に浮かべた笑みが
かつてのそれと同じだった

未だ月の昇らぬ空を仰いで
軽く哂う

ああ そうだ
己を誤魔化すことなどない

墨焔にして邪炎
心を忘れ想いを封じ
闇に生きる夜の眷族

それで良い
何を躊躇うことがある?



2005.2.4(Fri)

「」


グラスの中踊る
紅蓮の焔の魂
まほろばに黒落とし
舞うように
歌うように

夕暮れにふと翳る
焔の形した魂
指先を擦り抜け
地に落ちて染まる
夜の墨色に

景色を彩るは闇
堕ちた紅蓮は潰えて

物言わぬ影となる



2005.2.5(Sat)

「」


闇に哄笑する
すべての詞は色褪せて
すべての歌は灰になる

自惚れるのも大概にしろ
俺に何の力がある?

届きもせぬ
触れられもせぬ
手を伸ばすさえ赦されず
知らぬところで また

ヒトを一人 喪う


求められぬなら俺に価値はない
殺してしまえ
己の心など



2005.2.6(Sun)

「手段」


小さく笑って
笑みは虚空に消して

一つだけ 決意した

貴方を幸せに


それは俺が生き残る術



2005.2.7(Mon)

「一つの話」


たとえば 貴公
俺が話をしたとしよう

あなたの大事に想うひとが
等しくあなたを想っていると

そしたら貴公 きっと
緩く優しく とても綺麗に
嬉しそうに笑うだろう

俺はそんなあなたを見て
嬉しい反面淋しく思う
此処に居ない人をその目に映す
そんな表情に切なさを感じて


寝物語にもならないような
それは一つのたとえ話



2005.2.8(Tue)

「」


窓の外は雨続き
水煙に白く煙る
雲の向こうに月はなく
闇糸の降る静寂の夜

爪弾く音はかそけく響く
もしも夜に降る雨糸を
弾いて楽と為せるなら
その音は冷たいそれだろか

近しき面に遠い影
二つ離れてまた寄って
この腕逃れて舞うそれは
黙して降りゆく雨と似て

触れるを焦がれ
触れては薄れ
肌を刺される感覚に
心掠める過ぎた時

雨に歌を
夜に楽を
奏でて一人闇に詠えば

刹那の刻も夢に融けゆく
刹那き幻 霧の泡沫
雨散る夜の独奏詩



2005.2.9(Wed)

「」


月の無い夜に ふわり
漂う微かな甘い香

桜の香ともまた違う
春と冬との隙間から
零れて漂う 淋しげに

切なさ増して 断ち消えて
忘れた頃にまた薫る
気紛れなそれを夜道に探せば

風に吹かれてはらり散る
白梅の花 ひとつ ふたつ

綺麗なままの花弁拾って
そっと眠りの淵に置く



2005.2.10(Thu)

「」


祝杯の続きか 一人酒か
杯片手に星空を見上げた
口の端から零れた歌は
夢を未来を詠ったもので

ああ 俺は気分が良いのだと
自覚の無いまま知覚する

軽く笑って杯干して
星瞬く夜の空を仰ぎ見て
伸ばしかけた腕を天へ向けた

星の話をしてやろうか
多分貴公は知らないだろう
遙か西の果てしに伝わる
倭国のそれと似た神話を


ヒトのそれより敏感な
耳に感じた微かな歌は
きっと気のせいではなく

それでも聞こえない振りをした
俺が双眸に映るのは
目の前のヒト それだけだと



2005.2.11(Fri)

「」


窓の隙間から零れ来る白
緩やかに室内を浸食して
しとりと濡れる風

増す湿気に比例して
沈みそうになる意識を叱咤した

窓から眺めた景色は墨絵のよう
影のみで構成されて 闇に融ける

気分が悪いわけじゃない
悩み事が無いと言えば嘘になるが

ああ そうだね
多分霧の所為だろう

窓閉めながら呟いた
これじゃ火力も弱まると


…解ってるさ
俺はまた 自分を誤魔化してる



2005.2.12(Sat)

「」


黒の満ちる夜の下 盃を傍らに
引き寄せた月琴を奏でた 気紛れに

零れ落ちる音は静かに融け
静寂そよぐ夜を震わす ゆるゆると

乗せる歌も思いつかぬまま
揺れる琴弦の音 ふわり

どうだろう 貴公
何か詩を知らないだろうか

一つ詠ってみないかね
音なら俺が合わせよう


ふと思ったんだ
貴公の歌声が聞きたいと



2005.2.13(Sun)

「死人の歌」


闇夜に沈む時の泡沫
弾けて消えるその刹那
心を過ぎる歌がある

朗々と響くそれは だが
同士が殖えることを喜悦する
亡者の雄叫びの如く

地の底から
空の果てしから
湧き上がり降り積もる

それらはやがて音となり
混沌を宿す光となり
この景色のすべてに融けて


ああ
俺の内にも また一つ



2005.2.14(Mon)

「」


存在を願うこと
願われること

言葉でも行為でもなく
心でも熱でもなく
ただ そこに在ること

望んだのは永遠ではなく未来
繋げるのは定めではなく己

代価などなく
代償などなく

求められることもなく
求めることもなく

ただそこに在る
この傍らに在る


それが至福なのだと
何故理解出来ない?



2005.2.15(Tue)

「」


唯在るだけで良いなんて
誤魔化しも良いトコだ
綺麗事だけで生きていけるほど
俺は純粋じゃない

求められてるのは存在
だとしたら

それ以外のコトなんて
 きっとどうでもいい

壊れようと落ち込もうと悲しもうと
そこに在ることに変わりはない

…そうだろう?


ああ 御免な
解っているんだ
どうしようもないことくらいは。



2005.2.16(Wed)

「」


相も変わらず
聞いて欲しい言葉も
伝えたい言葉も届かずに

けれど それは半ば予想してたから
それほど辛いコトでもなくて

終わらせてたまるか って
どうしてだか そう思った


終わらせやしない
終わらせなければ時は無限で
紡ぎ続ける限り 言葉は生まれて

その中から いつか
伝わる言葉が見つかるのだろう

きっと



2005.2.17(Thu)

「」


朧雲に霞む月を見上げた
影に光に揺らぐ色
冷たく淡く 暖かく

近しき南の土地からも
沈む月は見えるだろうか
爪弾く弦の音 紡ぐ唄

静寂の檻貫いて
空を震わせ貴方の元へ

言霊 音霊 焔に込めて
空へと逃す 緋色の鴉

触れて響けよ 琴弦の音
包みて詠え 墨炎



2005.2.18(Fri)

「」


語る言葉も見つからず
言葉の意味も解らずに
ぎこちない発音で 零れる音

繋ぎ合わせて縫い止めて
虚ろな言葉の抜け殻を知る

風に吹かれてカラカラと
嘲り笑う髑髏のよう
歌う髑髏があるとも聞くが

虚ろな眼窩のその奥に
未だ魂は宿らない
未だ魂は宿せない



2005.2.19(Sat)

「」


懐かしい顔触れと
懐かしい雰囲気と
久方ぶりに感じた空気は
やっぱり 相変わらずで

そこには国もなく
組織もなく
ただ俺が友と呼ぶ人たちが居て

恐らく
俺が求めていたのは
国家という器ではなく
友人や仲間と呼べるもの

…なんて
俺らしくもない

けれどきっと それが真



2005.2.21(Mon)

「透花」


花を透かして空を見上げた
影の色さえ鮮やかに
夜を彩り映える月

路なき路のその果てしまで
音叉の如く震える星は
重ね連ねた楽を奏でる

今宵 闇さえ歌う夜
炎の紅蓮を透かし見て
白梅の花 紅に染め

闇は歌いて夢紡ぐ
甘き眠りに今は酔え



2005.2.22(Tue)

「」


月琴を背に 街を歩く
絡繰り仕掛けの灯火に
不似合いな己の姿を笑った

街の片隅は何処でも暗い
寂れた場所に集うのは
普段は見えないモノや心

忘れられたか隠されたか
光の祝福持たぬそれらは
驚くほど脆く 儚く
意外なほど純粋で 繊細で

夜の街灯りは彼らを照らし出す
時に美しく 時に醜く
それはまるで
世界が生みだした奇形児のようで



2005.2.23(Wed)

「月盃」


澄み渡る透明を満たした盃
空に掲げて宿す 満ちる月の色

ゆらゆらと 揺れる雫の残光
青く蒼く 夜の闇に消える

嘆きの魂 月に宿して
浄化して白と為す 今宵

俺が焔の墨色も
俺が影の紅も

一息に干して また一杯

夜の闇照らす 白金の
天球儀に軽く 口付けを



2005.2.24(Thu)

「月雫」


月の光 満ちて溢れて
夜空から滴る雫となる

そんな様を思わせるような
今宵の雨

窓を流れ落ちて
地に墜ちて爆ぜ

夜にきらめく雨糸は
黒き大地の命脈に融ける

月雫抱いて流るる
この星球は いつか

蒼穹にかかるあの月のように
浄く輝く日が来るのだろうか



2005.2.25(Fri)

「」


目覚める間際に夢を見た
覚醒の刹那にかき消えて
まほろばの如く霧散した
それはいつか見た光景

視界の隅に焼き付いた
忘れえぬ魂のシルエット
色も形も思い出せぬまま
ただ心だけがそこにある

影は動かず語らない
伸ばした腕は届かない
呼び掛け招くも応え無く
空間越しに伝わる 悲愴

触れ合えるまで此処に居よう
届かぬ声を言葉にして
佇んだ闇 夢の内



2005.2.27(Sun)

「」


遠ざかる風 幾千
繰り返し触れて 擦れ違う

過去から未来へ
未来から過去へ

想いを抱いて過ぎる雲から
零れ落ちた言の葉が雨になる

空に 大地に
きらめいて消えて

幾度も繰り返し蘇り
そして言霊は世界を育てる

届かぬまま消える言葉も
音にならず消えた言葉も

やがては空へ 大地へ
この星へ



2005.2.28(Mon)

「」


停滞したままの心を置いて
非情なまでに時は流れる
いっそこの身をまた
地の底深く沈めてくれようかと

ふと そんなことを思った
莫迦莫迦しい

願うのは未だ見ぬ時の果て
動き出した時を止めることは
今更出来るはずもない
置き去りにされぬように 追う

俺らしくもないと そう
自嘲気味に嗤った


構うものか
存在する意義と価値を失うくらいなら
俺が俺である為のアイデンティティなど
幾らだって捨て去ってやる

アナタを失う傷み以上に
俺が恐れるモノはないのだから



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