2005年3月
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2005.3.1(Tue)

「」


時の無い空
終わり無い夢

滾りゆく命黒く塗り込め
朧月の元 翔ける
緋の輪郭

闇を形作る
焔は軌跡為して

散りゆく命灰と尽くして
沈み往く月 追う
緋の輪郭

その身はうつろ



2005.3.3(Thu)

「」


家の壁に背を預けて
ぼんやりと空を眺めた

沈み込むわけじゃない
ただ
己の感情が理解できなくて

弄ばれるように持て余す
虚無にも似た感覚を


随分と変わったものだ
魔島の邪炎が聞いて呆れる

―尤も

その名は既に過去のものだから
今更どう思われたところで
どうということは無いのだが。



2005.3.4(Fri)

「雪花」


真白き静寂の闇に想う
果てることなき欲望を
遠い空の果てしより
降りて積もれる雪と似て
静かに舞い降り積もりゆく
夜に滾れるその色を

紅蓮に盛り 闇色に燃え
やがて灰の色をして
それでも今尚その内で
燻り続ける情念を
弄ぶがごと持て余し
夜に舞い彷徨う墨焔

伸べた指先赤灯し
空を漂い華のごと
闇に混じりて花のごと
開かぬ蕾に熱与え
真白き静寂の黒に咲く
縁の紅 雪に散る



2005.3.5(Sat)

「」


うつろい うつろわざるもの
かつてそう 己を称して
時の流れの中 一人
佇み続けた時がある

絶え間なく変わり行く世界にあって
一人それに抗い
愚かにも刹那に縋り
過去を今とし
現在を未来とし
唯 黒き影のみを想い

その妄執は断ち切れたと
そう 思っていたんだがな

幾百の時を傍らにあった
それは思いの外深く
俺の中に息づいていて
嘲笑う

笑わば笑え
所詮俺は俺でしかない

望む姿が俺に無くば
また一人になるだけのことよ



2005.3.6(Sun)

「」


仄かに漂う櫻の香に
もうそんな季節だったろうか
怪訝に思って首を傾げた

風に紛れて熱を酔わせて
闇夜に眠る櫻や桃を
狂い咲かせたことはあれど

惑うは花ばかりではない
そういう事だろうか
しかしそれでは余りにも


自意識過剰も良いトコだ

自嘲気味な呟きに
応えるものは誰もない

自惚れちまうよ
莫迦らしいほどに。



2005.3.7(Mon)

「」


随分と気紛れに戻られるのだな
久しく見なかった姿に
微かに皮肉気な笑みを浮かべた

彼の人の言葉が 場所が
貴公を引き戻すに値するのは
紛いもない事実なのだろうけれど


おかえり と
その一言だけが何故か 言い辛くて

嫌味と取られても仕方ない言葉を
多分 幾つも投げつけた

顔合わせるのは止めておこう
せめて言葉は届けておこう

見えぬ両眼を目にしたら
俺はまた貴公を詰るだろうから



2005.3.8(Tue)

「」


春の香りがする
気怠さと埃っぽさと
微かに漂う 甘い花の薫

見上げた空は未だ冬の色
それでも確かに感じた季節を

一人 胸の奥にしまいこむ

見せたかった風景
語りたかった言葉

過去形にするにはまだ早いけれど
それでも過ぎれば二度とは巡らない

終わらせない時間は無限
けれど
同じ時は二度とは巡らない

モノクロォムの風景
目を閉じて 深く息をした


風に乗って
春の音がした



2005.3.9(Wed)

「白梅香」


暗闇の森に白梅が薫る
微かなはずのそれは
しかし確かな存在感を伴って
ゆらり ゆらりと

 ―紅の

ふと混じる 違う香り
白梅のそれよりも鋭く
白梅のそれよりも淡く

 ―櫻、か

指を伸ばして香を辿る
狂うかえ くちなわの
呟いた唇は音を発せず

 ―酔狂な

ふわり ふわりと
迷うように誘うように
やがて櫻の香は消え
暗闇の森に白梅が薫る



2005.3.10(Thu)

「」


闇夜に鶯の声 ひとつ
彷徨い出たかと耳澄ます
櫻の香も梅の香も
何故だか今宵は妙に薄くて

夜の向こうから また一つ
誘われるように闇へ

まだ昼の熱を宿した大地を
一歩一歩踏みしめながら
一足ごとに重くのしかかる
距離と 己の言葉

振り返って告げられれば
ああ どんなにか楽になるだろう

溜息一つ
また声を追う

貴公も 俺も
多分何にも解っちゃいない

解らないまま闇に融ける
壊れないように
壊さないように



2005.3.11(Fri)

「」


見えぬ筈の月を見上げた
ふと心を過ぎる 面影

絆を 契約を
断ち切ったのは己なのに

未練がましいと自嘲する


月の明るい夜
或いは月の無い夜

貴方はまた 何処か淋しげに
空を見上げて佇むのだろうか


一瞥さえ与えられることなく

それでも俺は きっと
…そしてまた自嘲する

すべては過ぎたことだと
月の無い空を嘲笑う



2005.3.12(Sat)

「白い夜鴉」


闇へ融けるように
響く鳥の声

美しいとは言い難いそれは
遠く 近く 夜の内から
呼び掛けるがごとく響く

木々の枝に
月無き空に

薄ぼんやりと漂うような
翼の形した白鴉


背徳の月を思わせるようで
一人 小さく笑った

その姿では闇にも受け入れられまいに
…哀れな



2005.3.13(Sun)

「狂花」


ふわり ふわりと
惑う櫻が空を舞う
ゆらり ゆらりと
紅を宿した枝揺らし

内に抱くは翡翠の華
抱いて喰らいて尽くそうか
嗤う櫻の弄う言の葉
闇夜に融けて花狂う

甘く滾れと誘う声に
炎の紅蓮に吹雪く花
墨色焔は小さく笑って
聞こえぬように呟いた


狂花の紅何するものぞ
甘き夢ならもう要らぬ
傍らに添う存在は
闇夜の焔も甘くする



2005.3.14(Mon)

「爪月」


濃紺の空に食い込むような
細い 細い月の夜
微かな風に揺れる幕間から
瞬く星を垣間見た

繋ぎ止めるに言葉は足りず
手を離すには近すぎて
月と星との距離のよう
近しく思えば尚遠い

俺が言霊さかしまに
音無き言の葉泡沫に
届かぬ言葉を亦紡ぐ
紡ぐ想いよ糸となれ
繋ぎ繋げる絆となれ



2005.3.15(Tue)

「無音」


結局 俺は変われなかったのだな
沈黙の満ちる部屋の中でふと
そんなことを思った

歴史は繰り返す か
未来さえ変えられると
一時でも信じていたというのに

けれどもう 悲嘆も無念もない
麻痺したのか慣れたのか
それとも本当に感情を殺したのか

望むことなら叶えてやろう
何から何まで 乞われるままに

貴公の所為だよ
そういって笑うことくらいは
せめて 許されるだろうか



2005.3.16(Wed)

「」


暗闇に目を凝らす
かつて見えた漆黒はもう無くて

一人過去に戻るのも良いかもしれない
そんなことをふと 思った

かつて俺は過去ばかり見て
過去に縛られ立ち止まって居たけれど

今度は過去に戻っても
停滞した時の狭間から見るのは未来

一人動かぬ時間に佇んで
それでも未来を見れるんだ

愛しひとの面影に
その記憶に


なぁ、貴公
素敵だと思わないか?



2005.3.17(Thu)

「」


薄墨を水面に落として
じわじわと
静かに広がりゆくを眺めれば
いづれこの空と同じ色になるだろうか

強風の吹き抜ける空を見上げた

忘れて 封じて
消し去ったハズの言葉と想いが
ふとした刹那に零れそうで
迂闊に口を開けないな、と

小さく笑った



2005.3.18(Fri)

「沈丁花」


濃緑に紛れて咲く 白き花
紅に縁取りて 薫る
梅よりも尚濃く
桜よりも尚妖艶に
されど何処か 清楚に満ちて
早春の風に薫る

ふわり吹く 昼の風
透き通る 夜の風
いずれも香抱き 過ぎる
惹かれて闇夜に探す
永遠を抱く花を



2005.3.22(Tue)

「」


『桜咲く咲く 華咲き誇る
 誇る薄紅 まほろばに
 夢が現か 現が夢か
 花降里に思い出一つ…』


彼が姿を 華を 彩を
それが妖かしに魅入られたものであっても
散らすを惜しむものの多きことよ

己惚れていたわけではあるまい
けれど予想はしておくべきだった

戯れと笑うのならば その幕引きは
吃と己が手で為さねばならぬ

花は散ってこそ華となる
散らねば翡翠の芽吹きもない


『桜散る散る 華と散る
 舞散る桜 まほろばに
 現が夢か 夢が現か
 夢の櫻は色褪せない』


不死なる櫻
莫迦らしい

散らぬ華は腐るだけだ
美しさなど無い



2005.3.23(Wed)

「」


価値観は様々
美意識も人それぞれ

過去の亡霊と己を呼ぶ
その行為に俺は意味を見出せず
かつての故郷を忍び 懐かしみ
取り戻そうとする心も
理解出来なくはないが
賛同出来るものでもなく

皮肉屋になったもんだな 俺も
けれど

黒き境壁は死んだ
過去を忘れろとは言わないが

変えるべきは過去ではなく
未来にあるのだと思う


魔島は変わっていない
良くも悪くも、な



2005.3.24(Thu)

「」


月を見て ふと思う
狂い咲いた桜の下で
闇夜に出逢ったひと
漆黒の面影

幻紗に霞んだものでも
俺は確かに その色に惹かれて

影の向こうに垣間見えた姿を
金色の奥に霞む色を
決して見ようとはしなかった


俺にはもう 黒は要らない
薄情なもんだね 我ながら

小さく笑って空に願った
満月が近い

雲集いて月 朧に
満ちた月に狂うひとが無いように
穏やかに包みて 夢を為せ



2005.3.25(Fri)

「」


満ちた月から目を反らして
零れた吐息の緋色を笑う

普段は闇の色なのに

影が 焔が
紅蓮に染まるのは

見えぬ隻眼の端から墜ちる
影が黒く沁みを作るのは

俺が未だ俺のものにせぬ
感情に浸されて流されるとき

立ち上る黒い陽炎
映して揺らめく紅蓮の影

片眸で見やる己の足下を
飲み込むほどに 朱紅く

眺める俺の双眸に
感情が表れる事は 未だ無い



2005.3.28(Mon)

「彷徨火」


彼方へと
差し延べかけた腕を落とした

雨霧纏い
くるり舞う面影を夢想しつつ

己のみの意思ではなかった
それは言い訳にしか過ぎず

掛ける言葉も
詩も 音も見つからず
届ける熱さえ霧散して

自嘲する

今更― だと



2005.3.29(Tue)

「」


閉じた眸の奥で
ゆらり 揺れる紅蓮と
舞い散る桜と似た薄紅

迷いと逡巡と気懸かりと
通り過ぎた幻に惑い
風に吹かれて頼りなく
明滅する仄灯のように

不安定に掠れる意識を自覚する

それは既視感とも似て

己の危うさを忘れるが如く
触れるすべてをいとおしむ



2005.3.30(Wed)

「雨夜の月」


ひらり ひらりと
雫光る花片が舞い降る
雨打たれてひとつ ふたつ
風吹き抜けてみっつ よっつ

ざわざわと
漣と似た葉擦れの音させて
香り高き揺れる花の 木々の
間を縫って過ぎる雲 霞

見上げた視界の切れ間に
風は凪ぎ

ほんの一刹那 動きを止めた
雲の合間を透かして

朧月の光 舞い降りる



2005.3.31(Thu)

「」


春の夜更けに 風が凪ぐ
動かぬ景色 響く音

きぃん、と 耳鳴りに似て
高く低く 遠く近く

静寂に音があるとしたら
それはきっとこの音を示すのだろう

るーん、と 大地が唸る
揺れるように 沈みこむように

時定まらぬ逢魔の刹那を
例えば今この時と呼ぶのだとしたら

この世は総て魔性となる



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