2005年4月
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2005.4.1(Fri)

「白桜」


ふと見た先に 桜の一枝
薄紅帯びた蕾に混じり
そっと開いた花 一つ

淡すぎる程淡い香りを
眠気を誘う春風に融かし
花は揺れる ゆらゆらと

下弦の近き月に照らされ
小さく輝く花を指して
熔けるようにふわりと笑った


― 来年もまた
 見れると良いね



2005.4.2(Sat)

「」


聞こえぬ唄と
目にし得ぬ舞

空を裂く白い軌跡
唐紅に廻る色
夜闇に融ける漆黒
刹那煌めく金色

例え誰が見なくとも
月と花が見守るだろう
春の夜風と似た香を纏い
静寂の闇にくるり舞う
その姿を

遠ざかる音と
霞みゆく色彩

届かぬ言葉
届いてはいけない言葉



2005.4.3(Sun)

「それはまるで謎かけのように」


例えば香
例えば気配
例えば 色彩

刹那風に触れた己の吐息に
隠した気掛かりを潜ませて

夢か幻か
現に見えるは何時の日か

もしも再び巡り逢えるなら
次は貴方を見れるだろうか

仮面でもなく黒でもない
個として存在する 貴方を


傍らの存在に 熱に触れ
小さく笑った 自嘲的に

―甘いな 俺は
 だから貴公を不安にさせるんだろう

思い上がっているだけだ
支えられるのは俺だけかもしれない
 ―なんて

貴公の手を離すコトなど
出来やしないというのに



2005.4.4(Mon)

「」


己でさえ聞いたことのない
穏やかで 柔らかな声
そんな音を紡いだ己に
或いはそれを導いたひとに
ほんの少し 驚いた顔をして

緩やかに微笑う

ああ
俺はこんな表情も出来たのか

己の知らぬ声
己の知らぬ顔

…願わくば
それは貴方だけに



2005.4.5(Tue)

「さかしまの月」


暁に白く染まりゆく空に
薄ら掛かる 細い月

夜の残した爪痕のように
薄く鋭く 微かに赤く

さながら錆びて刃毀れした刀
或いは断頭台に掛かる曲刃

朝焼けの空の色は
日中の純白を呼び起こし
俺と俺の世界から色彩を奪う


厳かに夜闇を切り裂いて
さかしまの月は陽光を導く



2005.4.6(Wed)

「」


視線も声も存在も
望まれるなら言霊さえも
唯一人の為だけに甘く


感情と言う感情も知らず
感覚と呼べる感覚も知らず
そうして生まれて 存在して

心と呼べる心も持たず
愛情も快楽の区別も付かぬまま
意識を自我を与えられ


それ以外は何も知らなかった
漸く覚えた優しい感覚を
心地好い感覚を出来る限り
俺の持つ総てに込めて



2005.4.7(Thu)

「春の夜の夢」


陽光に誘われるように咲いた桜は
その内に光を抱いたまま夜闇に映えて
吹き抜けた春の風に散ることもなく
零れんばかりに花咲き誇らせた枝揺らし

あぁもし世界が赦すのなら
俺が此の身が赦すのなら
その幹に凭れて足下で微睡み
そのまま朝迎え昼迎えて過ごしたい

傍らには求めて止まぬ存在
そうして二人で 三人で
綺麗な景色眺めながら 一日
何をすることもなくゆるりと語れたら


儚げな夢さえ抱いた
それはきっと桜の魔力

泡沫の如き 春の夜の夢



2005.4.8(Fri)

「」


月の無い夜にひらり舞う
己の黒き焔

咲いた桜を焦がすこともなく
風無き空に舞い上がり

夜鴉のように彷徨って
闇に融けて 消える

黎明を過ぎれば空に一つ
遺された痕 白く

気怠い昼の裏側にある
夜の痕跡 空の傷



2005.4.14(Thu)

「」


春の風は静寂を取り払い
霞がかる夜空の色に 一つ

人でも殺してきたような
落陽の色に染まった細月

西の空に低く懸かって
闇の帳導き 昼を断つ

雲に朧に 遠く遙かに
届かぬ光を赤く湛えて

月は一人 淡く笑う



2005.4.16(Sat)

「一人静」


冬も過ぎ去る夕暮れの
木々の根本に隠れるように
四枚葉を突き抜けて
白く零れる花の色

聞けば闇夜に一人舞う
異国の姫の名を取って
一人静と呼ばれると云う
奇妙な形をした花一つ

夜更け前には沈んでしまう
上弦の月を見上げては
風に揺られてゆらり舞う
四枚葉の翼に花一輪

月の代わりに灯を一つ
せめて焔と舞え 可憐な花よ
月の冷光は未だ
この季節には淋しすぎるから



2005.4.17(Sun)

「焔の芯」


己が内で滾るは決して
人のような血潮などではなく
陰惨たる過去に構築された
俺が俺として存在する為の疵痕

触れ得ぬ焔を現世へ誘い
まほろばを触れ得る焔と為した
己が存在を繋ぎ止めるは
濯ぎ落とせぬ 「痛み」と「快楽」

墨色焔の奥底で
灯る紅の意識
知り得ぬまま封じた炎の色

灯る火は
点る緋は

やはり 誰かを焦がすのだろうか



2005.4.18(Mon)

「朱紅い月」


綺麗なモノだとは思わない
それでも何故か惹かれる
危うさと 妖しさと
夜闇に対する背徳の
紅の色が夜を侵す

指先に灯した炎は黒く
それでも黒き夜に揺らめく
熱く 狂おしく
夜闇に融けて見えぬ影
墨色焔は夜に詠う

月の影に映る 緋の輪郭
朧雲纏いて煙る 薄墨の月

交わる場所に瞬ける
まほろばの如き 絆の糸



2005.4.20(Wed)

「白金の雫」


曇り増す闇の空にゆらり
朧霞む夜の甘き光
集いて為す 深淵の息吹

雲向こうの月映し
 雫に惑わす黒き水面
さらさらと…
 音啼いて雨 積もる


滲む視界閉ざされた刻
掠れかき消える水鏡
月に降る雨 ただ白く

心の奥渦巻く欲望
 映した黒き水面遠く
ゆらゆらと…
 光立ちて月 昇る


雨は月に満ち
 雨は月より墜つる



2005.4.21(Thu)

「」


己を憎悪し怨恨を抱き
円輪を為す炎の淵に沈む

延べた手の先 紅一つ

華と咲かせて花と散り
夜の香のごと淡く彷徨う

禍は過ぎ去り 影一つ

夜の虹は闇を彩る
嫣と微笑えよ 愛し君



2005.4.22(Fri)

「」


白き光背負う月
夜を染め 空の果て
遙か南天へと懸かるとき
静かに揺らぐは 朧風

鏡の月に映る影
舞い降る言の葉 奏でては

詠え いざや詠えよ

音無き言霊糸のごと
紡ぐは縁 繋いで絆
糸の半ばを断たれても
亦た結ばれるが そのさだめ



2005.4.24(Sun)

「」


星無き空に懸かる月
鏡と似て白く 真円を描く

その面に誰を映し
その光で誰を照らすのか

闇照らすこともない
俺が墨色の焔には
計り知れぬ 事だけれど


月に狂うひとを知っている
月に焦がれるひとを知っている

月よ
お前が落ちるのが心配だから
お前に願いは掛けぬことにしよう

俺が願いは俺が届けよう
この手の届くところに
それはあるのだから



2005.4.27(Wed)

「Interlude」


張り詰めた緊張の糸が解け
刹那零れる安堵の笑み
その一瞬の隙をついて
入り込む それは神か魔か

緩んだ静寂の闇払い
視線の先にある 現を
愛おしいと思うのか
厭わしいと思うのか

逢魔が時のそれと似た
味も色も無い夕闇の
陽の沈み切る一刹那
或いは暁闇 その刹那

気紛らわしの休息時間
心惑わす 声と熱

――次の幕が開けたら
そこに待つのは おそらく…



2005.4.28(Thu)

「」


嘗て
それは己の熱を鎮める為の
その為のものでしかなくて

言葉も心もその意を為さず
与えられる感覚が総てだった

知らぬまま触れ得たものは
気付かぬ内に消え失せて

それが何であったのか
今となっては思い出すことも出来ない

知ることは 記憶されること
覚えることは 記憶すること

忘れてしまう辛さを
忘れられる切なさを

おそらく 俺は未だ知らない



2005.4.29(Fri)

「Akashic Records」


望むものならすべて与える なんて
――まるで悪魔の甘言だ


囁き告げる唇から零れる
熱も魂も逃さぬように 閉じこめて

眸合わせて緩やかに笑う

伝えたい事を伝えるのは
言葉だろうか 心だろうか
それとも触れ合う指先だろうか

伝え得るのはすべての手段

俺の望みでもあり
貴公の望みでもあるのなら


躊躇う理由は無いだろう?
――それがきっとあるべき姿



2005.4.30(Sat)

「月夜の螢」


夜更け過ぎて ゆるゆると
惚けたような月一つ
指先に灯した薄墨の
灯の色は月の冷光に覆われて

光無き光となる

指先離れて ふわふわと
漂い彷徨う墨炎
月夜の白に闇落とす
触れうるすべてを融かすほど

鋭き熱放ちながら

冷光持たぬ墨炎
紅持たぬ焔熱
白き月夜に黒穿ち
融かすは己の意識のみ



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