2005年6月
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2005.6.1(Wed)

「」


夕暮れ
月も星も無い空から

風に掠われ流れて来たか
それとも木々の葉雫か
頬にひとつ滴る 水の粒

疵痕を舐めるように
なぞるように

水雲の置き忘れたひとしずく
焔の肌を辿って消える


涙のようだと 小さく笑った



2005.6.2(Thu)

「音霊」


部屋の片隅
置き忘れていた月琴

引き寄せて
奏でる歌も思いつかぬまま
ただ ほろほろと弦を揺らす

零れ落ちてゆく音は
無造作に 無作為に
零れるに任す ヒトの涙のよう

悲しみも 怒りも
喜びも 幸福感も

綯い交ぜになった感情が
溢れ 零れゆくように

ほろほろと


不安定なままに
どこか安堵したように

零れゆく



2005.6.3(Fri)

「」


開け放したままの窓から
吹き込んだ雨雫に目が醒めた

ちりちりと 擽るような
疼くような感覚と似たそれに
小さく吐息して 窓を閉める

昔をまた 思い出す
この感覚が欲しくて
この感覚を求めて
雨の中彷徨ったこともあったと


――刹那
身体の奥を走った衝動
浮かんだ笑みは自嘲的なそれ


結局
 変われやしなかった



2005.6.4(Sat)

「」


雨の音が聞こえる

夢か現か 今も尚
耳の奥底で
さわさわと 擽るように

囁くように
呟くように

昨日まほろば 今日の夢
微睡む意識
くすくすと 微笑うように

誘うように
歌うように

優しい雨が降る



2005.6.6(Mon)

「夢の宴」


それはかつての風景
かつての故郷
かつての友

吹雪吹き荒れ
寒風荒ぶあの場所で

破壊と混沌
毒霧のごとき闇と
渦巻く喧噪

懐かしい風景に
俺だけが居ない


それは闇へ悖り行く者たちの宴

俺は還れない
還らない

この歩みの先にあるのは
過去でなく 未来



2005.6.6(Mon)

「」


迸るように
思い出す

ひとつの ことば


『おまえのその緋が
 私の色彩のすべて』




2005.6.7(Tue)

「」


過去へ引き戻されかける
意識の片端を繋ぎ止める
触れ得る存在と
言葉 記憶

離されぬ事を願えども
手放されぬ事を願えども
それはいづれ
俺の世界から消えゆくものなれど

今を繋ぎ止める
現を思い出す
その痛みは 苦しみは
紛れも無く 貴公が奪い 与えしもの


ゆえに俺は
その感覚を愛おしむ

それが例え
 痛みと呼ばれるそれであろうとも


伝える言葉を持たぬ
伝える言葉を知らぬ

だから幾度も繰り返す

貴方が必要なのだと



2005.6.8(Wed)

「」


絡めた指先 触れた肌
いつになく暖かく

熱の内に包まれて
微睡みにたゆたい
在るはずの無い記憶を探る

―イツカ ドコカデ


延ばす腕 絡めた指先
言葉を紡ぐ唇さえ
薄く紗掛かり霞みゆく

己のものでないような
己の身体を投げ出して
己のものだと知覚する
己の意識を求め彷徨う

繋ぎ止めて居てくれる

貴公を唯 信じて



2005.6.9(Thu)

「」


ふと気がつく
薄れかけた 黒への執着

色よりも本質を
本質よりも記憶を

追い求めて縋った
漆黒の形を為すすべて


己の焔は相変わらずの墨色
身に纏う衣は闇の色

けれども

目に映る風景 景色の内に
知らず求める色は 今
黒のみではない


幾百の歳月を賭して尚
振り切れなかった執着は
気付かぬうちに昇華して

また
新たな形を為すのだろうか

…否
求めるは仮初めではなく

魂そのものなのだろう



2005.6.10(Fri)

「雨の色」


天の片隅から墜ちる
昼間の雨は黒い糸
モノクロォムの視界を過ぎる

それは髪のひとすじのよう
泡立つような不快感を伴って
焔の肌に触れる


天の片隅から降る
夜の雨は白い糸
色彩鮮やかな世界を染める

それは光繋ぐ蜘蛛の糸
灯の明かりを反射して
星月の無い風景に きらり


熱を奪い光を弾く
己とは相容れぬ 天(あめ)の水糸



2005.6.11(Sat)

「夜鴉」


闇夜に紛れ遠く啼く
夜色翼の八咫烏
聖なる姿は呪われて
三足烏と成り果てる

彼方へ遠く手を延べる
此方へ来たれ 夜鴉よ
我手に宿ればその翼
六つに裂いてくれように

真紅の鮮血身に纏う
六枚翼の闇の鳥
天より堕ちて朱を喰らい
炎となりて死をば舞え

紅抱き闇に舞う
墨色翼の夜叉鴉
緋も漆黒も何もかも
憎悪も涙も何もかも

我が闇と共に
灰に変えて仕舞おう



2005.6.12(Sun)

「BAROQUE」


思い出す
昔を封じ込める

己の存在へ繋がる
過去を戒める


忘れ得ぬものをかき消して
穿たれた虚に何を満たそう

埋め得る糧さえ見つからず
蓄積され織りなされた真円は

少しずつ 崩れてゆく


だが これで良い

この存在は元より歪んでいた
知り得た筈の感覚
知り得なかった筈の感情

―これ以上

 歪み 崩れるものなどあるものか



2005.6.13(Mon)

「」


胸に淡く 感じる違和感
見上げた空に懸かる
七日の月


―嗚呼
 あの形だ


わけもなく 胸の違和感を
断頭台の刃のそれと似た
月のそれと 想像する

漆黒の空を切り取る
柔らかい 薄黄色の光


知らず 胸に手を当てて
見上げた月の姿 増した違和感

月の刃が胸に懸かる



2005.6.14(Tue)

「SAMSARA」


転生を導く浄化の炎は
それ自体が転生を繰り返すと言う

不死の名を持つ炎の鳥は
己が身を三昧の火に投じると言う

死に絶え 亦た産まれ出る炎
輪廻を描くが如く

けれど

ひとり 転生の輪から外れ
「言霊」に縛られた黒き焔は

死に絶えることも
生まれ変わる事もできず

己が身に負う業火の罪咎を
浄化する為の 焔も持たず


詛われて
己から詛われるを望んで

闇の色に染まる



2005.6.15(Wed)

「緋色の雨」


言葉を知らず
想いを知らず
伝える術を知らず

己が身を罰する術を知らず
己が咎を知り得る術を持たず

唯己が罪を詰り
唯己が罪に酔う


見ろ 俺は不幸なのだ
憐れんでくれ 労ってくれと

そう 言わんばかりに。


醜き己が心
雨に打たれて尚 消えることは無く

雫は染まる 紅色に
己が失った 焔の緋に



2005.6.16(Thu)

「」


言葉の無力さを思い知る
無くては伝わらぬものだけれど
それがゆえに行き違い
擦れ違い
せずとも良い誤解をする

己の無知を思い知る
ヒトの仕草を 行為を
俺は半分も理解していない


貴方を知りたいと 願う
理解を望まないと言ったあのひとは
そう思うことを赦してくれるだろうか

貴方を知りたいと願う
過去に触れることを
貴方 赦してくれるだろうか


不安が 恐れが 無いわけじゃない
けれど

進まなければ

その傍らに立つ為に



2005.6.18(Sat)

「月の色」


夕暮れの透き通る白
夜更けて柔き白金
暁の妖艶な薄紅
肩越しの天球儀

届かぬ月に焦がれ
爪先に緋を灯し
その輪郭をなぞる

願わくば 紅に
願わくば 墨色に
染まりて我が手の内に

さもなくば

その気紛れな輝きに
焦がれ 狂うことを
どうか赦し賜え



2005.6.19(Sun)

「」


天空より腐臭が漂う
禍々しい形をした 冥界の城

あの内には一体 幾人の
「かつての友」が居るのだろう

黒き境壁が潰えたとき
共に潰えた魂を幾つ喰らったのだろう


遠く 冥界の城を見る

けれど かつての友よ
黒き大地に根付いた貴公等は
後悔などしていないのだろう?

出会って殺されてやってもいいが
…生憎と
消滅する場所は決めてあるんだ


俺とは道を違えた者たち
己の愛する闇と共に
消えるを望んだ者たち

その空ろな目に映るのは
一体 どんな世界なのだろう



2005.6.20(Mon)

「」


奥底に巣食う
『絶望』という名の影
淫猥に蠢く蛇のように
奥深くを這いずり回る

紅の鮮血と似た
熱滾る焔の源
『絶望』の甘き蠱毒に
魅入られて 捉われて

焔尽きて消える刹那の苦痛を
朽ち果てる今際の快楽と覚える


黒い涙は己が内の毒
流しても消えぬ 己が罪咎



2005.6.22(Wed)

「」


おそらくは

誰の望むものも
俺は与えることは出来ないのだろう

焔の熱と禍
そして傷痕

この身に流れる血はなくて
紡ぐ言葉さえ意味を成さず

遺すのは

苦痛と幻
それもいずれ消える


…もとより
形無き存在なのだ

それも 多分
仕方のないことなのだろう



2005.6.24(Fri)

「」


ぽつり ぽつりと
雨雫に紛れて
赤黒い 雫が滴る

窓辺を伝う雫
眺める視界の片隅を
滲ませ落ちて

指先に触れ
熱く 冷たく
融けるように消える


視界に色はなく
影は紅蓮に染まる

愚かにも 求める姿は

きっと もう
手の届かない場所に


零れ落ちた言霊の
せめて切れ端だけでも

貴方の心に届けば良い



2005.6.25(Sat)

「」


漆黒に彩られた
どこかで見た形

摘み上げてくるり回す
錠は閉ざされたまま

解き放つも 封じるも
お前が廻る向き次第

黙したまま語らぬ鍵
情は閉ざされたまま

閉ざした鍵は胸の内
月色反して闇に煌めき

愚かなことをと 嘲笑う



2005.6.28(Tue)

「」


弦の断たれた月琴
滴る雫 切れた弦につたい
白を黒へ染め上げる

降りしきる雨に濡れても
染まった黒は落ちることなく
己が内なる闇のごとく


零れた吐息は緋色
己が足下の影も等しく
認めたくない 一つの事実に
思い当たって 自嘲する


邪炎の流す涙は黒い
その嘆きは炎のそれ

泣ける筈などなかった
涙など知らぬままで良かった

狂えぬままに
壊れ得ぬままに

与え続けられる苦痛など


…嗚呼 けれど
それが貴公の意志ならば

甘んじて受けようと思うのだ

今も 尚



2005.6.29(Wed)

「」


心紛らわせる楽の音もなく
詩紡ぎ出す気にもなれず

見上げた空から落ちる雫は
己の目の端から零れるそれと似て

ちりちりと 焔の肌を浸食する

己の行動を嘲笑う
愚かで卑怯な行動だと

けれど

すべてが遅すぎたとしても
引き返すこの道が誤りだとしても

止まることは出来ない


…この道以外に
俺が在り続けられる道は

おそらく 残されていないだろう



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