幻獣綺譚 外伝
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reminiscene 3

 俺が今のように変身(トランスフォーム)する身体になったのは…そうだな、大分前のことになる。暁のエオスとして追い剥ぎなんかをやっていた…それから3年くらい経っただろうか。
 いい加減、町の方でも放っておけなくなったらしい。俺を捕まえるか、殺すかするために傭兵が雇われた。
 そいつらが来なければ、俺は今でもああして追い剥ぎをしていただろうな。妙な運命だ。
 …その時のことは、実を言うと詳しく覚えていない。
 ただ、死にそうになった事だけ…やけに鮮明に記憶に残ってる。

  **  **

 生きるための手段の一つであり、決して娯しみではなかったからだろうか。調子に乗って度が過ぎることはなかった。
 けれど、彼が奪った物の中には、貴重なものも幾つかあった。彼を追い払おうとした旅人が、逆に大怪我を負わされたことも度々ある。
 斡旋所では傭兵を募り、彼を捕らえるために派遣した。だが、相変わらず彼が森に棲むことは知られていなかったので、すぐに…というわけには行かなかったが。
 彼の方もそれを知ってか知らずか、警備の者がいない荷物を狙って人を襲っていた。
 しかし、それも長く続くはずがなかった。
 その日、少年は何の気もなしに森をでた。取り立てて何かしようと言う気もない。ただ、ほんの少しの気分転換のつもりだった。
 いつものように崖に立って街道を眺め…そこに武装した一団がいるのを見て驚愕する。
 慌てて身を翻したが、一人が彼に気付く方が数瞬早かった。

「暁のエオスだ! 追えっ!」

 弓鳴りの音が聞こえ、彼のいた辺りを数本の矢が突き抜けて行った。

――ナン…ダ?

 森の奥へと逃げ込みながら、心の中で呟く。何故、こんな事が…?
 速さは彼の方が数段上だったが、人数と戦法では男達の方が遙かに勝っていた。泉の際に彼が追いつめられるまで、半日と要さなかった。

「この…街道荒しめ!」

 容赦なく棍棒が振り下ろされる。絶え間なく続く罵声、身体の痛み。しなやかな筋肉のついた、だがまだ年若い身体に、幾つもの傷跡が刻まれていく。
 食い縛った奥歯から、息と共に呻き声が漏れた。

「――化物め!」
「忌々しいガキが…」

 続けざまに叩きつけられる痛みに、息すら出来なくなる。
 打ちつけられるそばから、皮が裂け、血が滲む。

――ナンデ…

 肺が潰され、肋骨が軋みをあげる。辛うじて吐き出した息に血の匂いが混じり、ふっと意識が遠くなる。

――ドウシテ…オレガ…

 奥底で何かが切れる。
 覚醒する獣性。銀色の髪がざあ…っ、と金色に染まる。
 口元の牙はより鋭く、爪は長く、肌には黒銀の体毛が、そして瞳は血の色のまま獣眼に。
 その冷眼に見据えられ、振り下ろされていた棍棒の動きが止まる。男達は怯えたように彼から目を背け、逆に彼は――黒豹の容貌を得た少年は、身体に受けた傷をものともせずにすっくと立ち上がる。
 喉を震わせて咆哮する、それは獣そのものだった。
 暁のエオス…この瞬間に、黒豹としての名を知らしめることとなる―――。





 生まれながらに獣の牙を

 生まれながらに豹の瞳を

 獣人として生まれたがゆえに

 人として生くるを望むがゆえ

 その身体 常に狭間にありて

 抜け出せぬ混沌の迷宮の中

 彷徨い続け進み 続けて

 生きるがために命を奪い

 生きるがために命を救う

 矛盾の内に住まうが運命

 ゆえに獣人‐けものびと‐

 その名を 背負う






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