Spiral Serenade scene3
SaGa Frontier


scene 3


 定められた道筋を、半ば諦めたように二人は進んだ。
 ルミナス・オーンブル・ドヴァン…麒麟の空間や時限妖魔のリージョンまで…たった一人の兄弟を殺す、ただそれだけのために旅を続け…。  空間を越えて対峙する二人の間には、常に決して越えられぬ歪みがあった。
 そして、今‥‥‥
 目の前の相手を、彼らは互いに黙って見つめた。  生まれたときからの役目。互いに不完全なまま生を終える気は毛頭ない。ならば、優れたものがその道を得るのみ。
 言葉は必要なかった。
 痛いほどに相手の心がよく分かった。何故なら、相手もまた、自分と同じ星の下に生まれたものだから。
 次元空間に光の渦が交錯する。交わり合い弾ける影、両の掌に込めた力が迸り、虹となって辺りを覆い尽くす。

(お前は私だ‥‥ルージュ)

 視界を遮る劫火を、瞬時に作り出した障壁で弾き飛ばす。口元に娯しげな笑みを張り付かせ、続けて術を放った。
 宙空に描かれる古代文字。刹那とどろいた雷が、相手の術と溶け合い消えゆく。続けて走る痛み。鮮血が視界を染める。

(キミも、僕も…互いが無くては生きていけない‥‥そうだろう、ブルー!)

 その唇に浮かぶ笑みは、何処か優しげだった。
 恋人に向けられるもののように、親しい友に向けられるもののように…。
 ぶつかり、相殺する魔力。爆風に煽られ、長い髪が靡く。
 吐く息には血が混じり、続けざまに術を繰り出す手は既に使い物にならない。だが、それでも動き続けるのは、彼らの想いがあればこそ。

「死ね…ルージュ! そして私と一つとなれ!!」

 自嘲するかのごとく叫ぶ。その手には、今までにないほどの魔力の塊が凝縮されていた。

「決着をつけよう…ブルー。これで終わりだ!」

 ルージュもまた、両手に力を込める。
 双方の身体は同じく、疲労の極地に達している。
 どちらの力が勝るかなど、分かるはずもない。だが、確実に分かることが一つ。
 これで、すべて終わる……。
 一瞬と違わず、二人は魔力を解き放った。選考が辺りを押し包み、刹那、音すら消し去る。

「が…っ」

 不意に…双子の片割が片膝をついた。
 喉から溢れ出る血を茫然と眺め、彼はその身を地に投げ出す。
 よろめきながらも歩み寄ってくる相手の姿を視界の隅に見付け、彼は微かな笑みを浮かべた。

(…負け、か)

 すいと、相手が傍らに屈み込む。
 身じろぎすら出来なかった。全身から力の抜ける感覚に五感を支配され、彼はただ、目を閉じる。

(これも…宿命められた結果なのか……)

 …だとすれば。
 乾ききった口の中で呟く。

(互いを無くしては生きられないのも…)

 不意に身体が軽くなる。僅かに開いた視界の中に、彼は自分と同じ姿をした者の表情を見た。
 不安げで、優しげで…力強く頑なな、自分には決して出来ない表情。
 微笑みを消さぬまま、彼は唇だけで囁く。
 自分に代わって最強の術士になる、自らの片割れに……



静かなる その御姿に 絶えぬ憧憬のありて

吾常に追う その汝ゆえの軌跡

剣は舞いて楽を奏で 飛燕は翔びて歌を歌う

ために紡ぐは 夢か幻か

今は失し尊き君の 涙に捧ぐこの夢か

涼しげなる その双眸に 絶えぬ惜別のありて

吾常に願う その汝ゆえの安息

氷は砕けて輝きを湛え 鴻鵠は啼いてその名を遺す

碧翠の時は終わりを告げる 夢も現も幻も

碧翠の時は終わりを告げる 沈黙の内で すべては無に帰す…

-END-



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